【第31回】 一歩前「深」

初心者や、稽古を始めたばかりのときは、新しい技を覚えようとするものだ。基本技もできないのに、腰投げとか、呼吸投げ、武器取りなどやりたがる。演武会でも派手な技をやる人が増えているように思える。もし、開祖がご覧になったとしたら、間違いなくカミナリ物だろう。

技を沢山知ることはいいことだし、むしろそれは稽古の大事な目標のひとつだろう。しかし、一教や二教、四方投げ、入り身投げなどの基本技も満足にできないのに、腰投げや多人数取りなどやってもできるわけがない。

合気道には基本技と言われるものがある。基本技はどこの道場、どの先生もやっているものだ。開祖が道場に来ても、このような技をやっていればあまり怒られなかったので、大事な技のはずである。それに、基本技は何万回、何十万回やっても、決して完全にはできない奥深いものでもある。基本技は、初心者が初めにやるような、容易に入り込むことができる技であるが、やればやるほど自分の未熟さがわかるものでもある。特に一教は入りやすいが、最後に立ちふさがる技である。

合気道の技は宇宙の法則に合致したものであるといわれる。つまり、合気道の技を稽古することによって宇宙の法則に結びつくことになるので、そう簡単にできるものではない。しかし、宇宙の法則に結びつくためには沢山の技をやる必要はなく、一つの技でも深く追求すればいいのである。

従って、真の合気道の稽古は技を沢山覚える「量の稽古」ではなく、少しでも深く入っていく「質の稽古」となろう。毎日、毎回、稽古は一歩前「深」である。