【第309回】 足に邪魔をさせない

合気道は技の練磨を通して、体のカスをとり、力をつけ、合気道の体をつくっていくが、初心者のうちは、この力はいわゆる腕力であろう。だから、とりわけ若い初心者のうちは腕力がつくように、力いっぱい稽古をしなければならない。合気道は力がいらないなどという迷信に惑わされることなく、力がつくように稽古をすべきである。

しかし、その内に腕力だけでは技がうまくかからないことが、わかってくることになる。相手にちょっと強く持たれたり、抑えられると、思うように動けないし、技などかからなくなるのである。

技がつかえるようになれば、そのような問題も解決できるだろうが、技はすぐにつかえないのが問題である。ならば、力を有効につかうことを考えればいいだろう。

人の最大の力のもとは、五体の中の体幹であろう。手や足などの末端の力は、体幹に比べれば小さいものだ。合気道の技は手でかけるが、手の力、つまり腕力でやっても、大した力は出ないものである。

そこで、この体幹からの力とはどういう力で、どうすればそれを有効につかえるかということになる。体幹からの力とは、体幹の重力であり、圧力と考えていいだろう。体幹の力と腕力は量的だけではなく、質的にも大きな差がある。これは、たとえば二教裏などでわかるだろう。手でなく、胸からの体幹の力できめられると、体幹の大きな圧力が手首にかかり、痛いとも感じないのに、体が吹っ飛んでしまうような衝撃がある。

しかし、この二教裏でもそうであるが、体幹の重力を有効につかえなければ、この技も効かないし、もみあったり争ったりしてしまうことになる。体幹からの力を邪魔しているものがあるからである。その邪魔しているものは何かというと、それは「足」である。

着地している足の上に体幹の力や体重を落としても、足がそれを邪魔してしまうのである。足がつっぱってしまうと、あとは手しか動かないので、手をつかうことになるが、手などは大した力がでないので、相手がちょっと頑張れば、二教裏の技は効かないだろう。

二教裏が効くためには、この邪魔になる足に邪魔させないことである。つまり、前足を着地してから技をかけるのではないのである。足は二本しかないし、どちらかの足が地に着いていなければ、立っていられないのだから、残された選択は反対の足がポイントとなる。後ろ足を着地したとき、体幹(胸)に相手の手首をくっつけ、この後ろ足を支点に体幹(体)で倒れこむように圧をかける。そして、相手が倒れたり、崩れてから、前足が着地するようにするのである。

前足の着地のタイミングをもう少し詳しく説明すると、相手が崩れ落ちてくるのと、カウンターのタイミングで足が上がり、相手が倒れるのが、同時ぐらいに着地するタイミングだろう。

足が邪魔してうまくいかないのは、二教裏だけではない。肘決めも典型的なものであるが、実は、すべての技(技の形)で言えるようだ。一教、二教、三教、四教、四方投げ、入身投げなどなど、足が邪魔をしていればうまくいかないはずである。

前足に重心がのっていれば、前に進むことは難しい。後ろ足に重心があれば、前足は自由に動かすことができる。正面打ち一教で技をかける際には、前足に重心をかけたところから歩を進めると、この前足が邪魔をして歩を進めることができないし、技もかけにくいものだ。

技は足でかけるともいわれるが、足を早く出したり、進めようとする前足に重心をかけたりすれば、足が技を邪魔することになる。足に邪魔をさせないようにしなければならない。