【第273回】 縦の円からはじめる

合気道は、相対稽古で技を掛け合ったり、受けを取り合って、宇宙の法則ともいわれる技を練磨していき、上達を目指すものである。

しかしながら、基本の技の形を何千回、何万回やっても、なかなか思うようにはいかないのが実情である。相手が素直に受けを取ってくれればよいが、力がある相手に少し力を入れて持たれ、頑張られたりすると、うまく動けなくなってしまうのである。

「片手取り四方投げ」で、受けががっちりと手首を抑えてくると、そう簡単に技はつかえないし、持たれた手も動くものではない。それには原因がある。

その原因のひとつに、持たれた手を横に振り回そうとすることがある。 相手の力が弱ければ、相手が崩れてくれるだろうが、力が強ければ横に振り回したのでは崩れないし、技がつかえないのである。両手取りや諸手取りでは、もっと惨めな結果になるはずである。

できないものは仕方ないが、問題は、できないのは稽古量が足りないためとか、力不足だけではない、ということである。稽古を続ければ、その内にうまくいくだろうと考えたり、力をつければできるようになるはずだとか、相手が意地悪だからできなかった等が、うまくできない理由ではないのである。

外から見ていると分かるが、確かに稽古量も力も不足してはいるだろうが、真のできない理由は他にあることに、気がついていないのである。それは、理に合っていない体の遣い方、技の掛け方をしている、ということである。

開祖は、合気の技は円のめぐり合わせであると言われている。円には縦の円と横の円がある。縦の円は天の呼吸といわれ、手の場合、手(手の平)を手先の方向に左右(縦横)に回す円である。横の円は地の呼吸といわれ、手を肩や腹などを中心にしたときの円である。

「片手取り四方投げ」でうまくいかない最大の原因は、持たれた手を横の円から動かしてしまうことである。横の円の動きから始めると、力の強い人に持たれた場合に、動かないのは不思議ではない。横に動かすのは、相手の体をもろに動かそうとすることになるので、もし相手がそれに同意しなければ、難しいものである。

「片手取り四方投げ」で技を掛ける場合は、先ず、縦の円から始めなければならない。縦の円を遣うことによって、相手がくっつき、そして崩れ、相手と一体化できるようになる。あとは、相手を自分の分身として自由にすることができるのである。相手と一体化したら、そこで縦の円、つまり手を十字につかいながら、横の円で技を掛ければいいのである。

開祖は「技は天地の呼吸の交流から生まれる」といわれるが、天の呼吸は縦、地の呼吸は横と考えていいだろう。そして、天の呼吸は縦の円、地の呼吸は横の円と考える。

また、開祖は「天の呼吸により地も呼吸するのであります。」(『武産合気』)といわれている。天の呼吸により、地も呼吸するといわれるので、まずは縦の呼吸、つまり縦の円から始めなければならないことになる。

技は、手を横に動かすのではなく、手の平を縦、横十字に反す縦の円から始めなければならないことになる。