【第236回】 意志、体遣い、呼吸

合気道は技の練磨を通して進む道であるといわれるから、技を大事に遣っていかなければならない。しかし、初心者などは相手を倒したり抑えたりすればいいとばかり、手を振り回して、技を疎かにする傾向があるようだ。

技の練磨とは、技を磨き練っていくことである。技を磨き練るとは、技のあるべき理想の姿に少しでも近づくべく、形状的、時間的、空間的に必要なものを充足し、不必要なものを削ぎ落としていくことであろう。

技の練磨は、通常、相対稽古で技を掛け合って稽古していくわけだが、なかなかうまく掛からないものである。力のない相手には掛かるが、同じレベルや自分よりちょっと上の相手が、力いっぱい持ったり打ったりしてくるとなかなか上手く掛からないものである。

その理由はいろいろあるが、そのひとつに意志、体遣い、息遣いの問題があるようだ。技がうまく掛かるには、手足、体が正しく動かなければならない。正しくとは、宇宙の法則に逆らわない、自然の法則に従うということだろう。かつて本部で教えておられた有川定輝師範は、「1センチずれても技は効かない」とよく言われていた。正しい軌跡はあるし、正しい軌跡の動きをしなければならないのである。

正しい動きの技を掛けるには、先ず強い意志が働かなければならない。力むのではなく、相手との接点に気持ちを通し、手先や体をきちんと遣うのである。例えば、「片手取呼吸法」の場合、相手に取らせる手先に気持ちを通し、掴ませた垂直の手の平を、手の平が完全に上を向くまで90度反し、また90度戻して垂直に遣っていくわけだが、初めのうちは、相当意識してやらないと手は90度々々と正確に反らないものだ。手が90度々々、つまり宇宙の法則(モノを生み出す)である十字にならなければ、相手に抑えられてしまったり、相手がせっかく掴んでくれている手を離してしまうことになり、合気道ではなくなってしまうことになる。

強い意志とは、強い精神とか気持ちということだが、つまり気持ちを集中することだろう。恐怖心、闘争心、優越感、劣等感などをなくし、技の練磨だけに集中することである。

しかし、強い意志で「手よこう動け」と念じても、なかなか手や体は思うように動いてくれないものである。その原因の一つには、体の部位にカスが溜まっていてサビついているからである。まずは、このカスを取っていかなければならない。

もう一つの問題は、意志と手や体の動きに時間差ができて、バラバラに動いてしまうことである。これも大きな問題であると考える。

この意志と手足・体との時間差をなくし、意志の通りに体を動かすための媒体は、呼吸であろう。息遣いによって意志と体を結びつけ、体を意志通りに動かすのである。つまり、正しい息遣いをしないと、いくら体力があり、いくら強い意志で手足を動かそうとしても、うまく動いてくれないということになる。 技が上手く掛かるためには、意志と体遣いと呼吸が重要であるようだ。