合気道は技を練磨しながら精進していくが、自分から掴みに行ったり、打ちにいって、技を掛けて相手を倒したり極めたりするものではない。合気道の技は、柔道や相撲のように肉体的な先制攻撃技と異なり、攻撃してくる取りに対応する受けの技と言えるだろう。
そうであるから、攻撃してくる相手は本来、何をするか分からないわけだから、考えうるすべての攻撃に対応できる技を遣えるよう、稽古をしていかなければならない。
また、合気道の技は多人数の攻撃を想定している技であるので、一人を想定しての柔道のように、寝技などで一人にしがみつくこともない。それに、攻撃には武器もあり得る訳だから、一瞬で相手を崩したり極めたり出来て、すぐに次の相手の攻撃に対処できる態勢を取れなければならない。
稽古はいつも、あらゆる状況を想定してやっていかなければならない。攻撃してくる相手を一瞬で制するには、相手の要所を抑えなければならないことになる。要所を抑えることによって、相手の全身を制してしまうのである。要所を抑えることによって、相手の体を突っ張らせたり、脱力させて、絡みとってしまうのである。
要所を抑えるとは、簡単に言ってしまえば、体の機能を一瞬停止させてしまう箇所を抑えることと言えよう。合気道では、基本的には打ったり、突いたりしてではなく、手で要所を抑えることによって、関節をロックしてしまうことと言えるだろう。関節をロックすることによって、相手の全身を突っ張らせたり、運動機能を停止させて、制してしまうのである。
抑える要所はいろいろあるだろうが、合気道の技との関係で代表的なものには次のようなものであろう。
まず、一つ目は、手首である。手首の関節をロックすることによって相手を制する者には、二教(表と裏)、小手返し、四教があるだろう。
二つ目は、手首の上の肘である。この肘を抑えることによって全身を制する典型的な技は三教であろう。
三つ目は、肩である。肩をロックすることによって相手を制してしまうもので、その典型的な技は、回転投げや四方投げであろう。
また、首も大事な要所である。首をロックすることによって全身を突っ張らせて制することが出来る典型的な技は、入り身投げや回転投げであろう。かっては首を抑えて投げる技(写真)も稽古したものだが、最近ではほとんどやられなくなったようだ。
そして、最も基本であるが、最も難しい腕のロックである。この典型的なものは一教腕抑えである。これが最も基本で重要である。この腕を抑えて相手を制することが出来れば、相当なレベルと言えよう。
これらの要所を抑えても、相手を制することができない場合は、抑えるところがずれているか、抑え方が不味いか、力が弱いか等、問題があるので、更なる鍛錬が必要となる。
参考文献 『武道練習』合気道開祖植芝守高(盛平)著