【第155回】 呼吸

呼吸は日常生活でも大事だが、合気道でも重要である。まず、合気道では相対稽古で技を練磨するので、かなり体力を消耗する。血液を体内に流し、酸素の補給を十分するためには、呼吸によって肺や心臓を丈夫にしなければならない。はじめは沢山受身をとり、力一杯技を掛け、息が切れないようになるまで稽古をすることである。まず、呼吸は体をつくるということである。

次に、呼吸によって、筋肉や筋を柔らかくしたり強靭にする。息を吸ったとき筋肉は柔らかくなり、吐いた時は硬くなる。呼吸に合わせて技の稽古をしながら、体を強固に、また柔軟にするのである。呼吸は体を強固で柔軟にする。

三つ目の呼吸の働きは、体の部位と部位を結びつけることである。手先と腰腹を結ぶのは呼吸である。呼吸なくして体の部位同士は結びつかないものである。手先と腰腹、手先と足に、意識と呼吸(息)を入れるのである。意識と呼吸を入れた部位同士は結ばれる。呼吸は体の部位と部位を結びつける。

四つ目は、呼吸は体と心をつなぐことである。何かやろうとするとき、よい成果を上げるためには、体と心が一つになって働かなければならない。合気道で技を掛ける時、体と心を結ばなくてはならないが、そのためには呼吸が大事である。一般的には瞑想法などで呼吸を使って、心を体に結ぶことをしているが、合気道はそれを動きながらやるのである。呼吸は体と心をつなぐ。

五つ目の呼吸の機能は、呼吸によって自分の体と他人の体を結びつけることができることである。特に息を吸って相手に触れると引力が働き、相手とくっつくことができるようになる。呼吸は人と人との体を引力でくっつけてしまう。

六つ目は、相手の体がくっ付くと同時に、相手の心と同調し、相手を自由にできるようになることである。これを世間では「息が合う」というのだろう。上手な人は、どんな人とも呼吸(息)を合わせることができる。呼吸は人の心を同調させる。

合気道には「呼吸法」という鍛錬法があり、重要な稽古法であるが、その目的は、上述のような合気道に欠かすことが出来ないものを会得することであろう。従って、呼吸法はただ「息」を吸ったり吐いたりするための稽古ではないし、相手を投げたり、倒すための技ではなく、いわゆる呼吸力の養成法なのである。

この辺までは誰でもできることだろうが、開祖は、「呼吸の凝縮が心身にみなぎると、己が意識的にせずとも、自然に呼吸が宇宙に同化し、丸く宇宙に拡がっていくのが感じられる。その次には一度拡がった呼吸が再び自己に集まってくるのを感じる。」と言われている。自分の呼吸がこの境地になるまで、修行しなければならない。呼吸の修行もまだ先が長い。

参考文献   『合気真髄』