【第132回】 いい指導者につく

合気道は技と業を繰り返し稽古して、突き進んでいく道である。技や業が合気道の最終的な目的ではないが、技と業が出来なければ合気道もその程度しかわからないので、技と業のレベルアップの稽古は重要である。業とは技を上手く遣うための動き、態勢、息遣いなどをいう。

合気道の技、とりわけ基本技の数は、それほど沢山あるわけではない。恐らく誰でも2〜3年で覚えてしまうだろう。しかし2〜3年で技が出来るといっても「なぞる」程度で、その技は効くものではない。

「なぞる」程度のことなら誰でも教えることができるわけであるが、教える方はいいとしても、教わる方にとっては指導者は大事であり、指導者の選択により運・不運が分かれることにもなる。教わる方は予備知識が無く、いいも悪いも分からないので、下手でもそれが合気道と思ってしまい、その指導者の技と業を模倣せざるを得なくなる。いい指導者につけば上手くなるだろうし、駄目な指導者につけば上達は難しいだろう。

合気道の技の数は無限にあるといってもいいだろう。厳密に言えば、掴むところを1mm動かせば違う技ということが出来るし、そこを上下左右に移動したり、押したり引いたり、角度を変えても違ったものになるからである。勿論、名前は付けようがない。しかし一般的な相対(あいたい)稽古ではそのような繊細な区別をしないで、基本技を基本的な攻撃と受けの形で稽古している。この基本の稽古ができれば、掛け(二人掛、多人数掛)や攻撃法(素手、得物、掴む箇所)が変わっても応用ができることになっている。従って、基本がいかに大事かということになり、指導者がどこまで基本に忠実に、そして正確にできるかが大事になる。派手なことや意表をつくことをするのがよい指導者ではない。

習い事はすべて、真似をして覚えることになっている。上手くなるためには、上手く真似をすることだから、真似のもとになる指導者の力量が重要となる。

近年、ミラーニューロンという物まねの神経細胞が発見されたという。ある動作をやっているのを見ると、興奮する神経細胞で、最初は猿から発見されたというから「猿真似細胞」と言えるかもしれない。ミラーニューロンは、いいものを見ていると自分がそれを真似し、自分の物にしようと、自分が気がつかないうちに、あたかも自分も同じ動作をしているように反応する神経細胞であるという。

指導者が生徒に技と業を示すと、見ている生徒にはミラーニューロンが働いて、先生の業を真似しようとする。指導者の業が素晴らしければ素晴らしいほど、ミラーニューロンは強力になり、生徒により強く真似をしようと興奮させるはずである。

昔、開祖や尊敬する師範の演武や業を見たときのミラーニューロンは、他の人を見たときとは格段に違ったものだったはずだ。見ていたときは自分も一緒になってやっている気持ちになり、一人でも出来るような気がしたが、勿論、実際に真似してやろうとしてもすぐにはできなかった。しかし今でもそのミラーニューロンが働いているのか、そのとき見たものに近づくべく練磨している。見たものが素晴らしければ、頭に強く残るようで、そのイメージを思い出しながら真似して、先人に近づこうとしているわけである。

見るものにミラーニューロンが出て興奮し、技と業の上達を促進させるようないい指導者つけたら幸せである。習い事をする場合、「三年稽古するよりも三年かけて良い師を探せ」といわれる。