【第124回】 基本に戻る

合気道の稽古をしていくと、壁にぶつかって先に進めなくなることがあるが、稽古の年数が増えれば増えるほど、立ちはだかる壁はどんどん厚くなってくるものだ。壁にぶつかったら、それを突き破らなければ先には進めない。初めの段階では、壁は薄いので、気力や努力で突き破ることはそう難しくないが、だんだんと立ちはだかる壁は厚くなり、その突破が難しくなる。

難しくなると、その立ちはだかる壁を避けて先に進むことが出来るように思うが、それは間違いである。何故ならば、壁は正道にあるのだから、それを避けると言うことは、横道、邪道に進むことになってしまうからである。従って、その立ちはだかる壁の突破に、全精力を傾けて挑戦しなければならない。しかしながら初めの内は、体力や気力で壁が突破できるが、だんだんとそれだけでは突破できない壁が現れてくる。自分の意気込みと努力では、どうしようもない段階の壁である。

この段階の壁を破るための方法の一つは、基本に戻る、原点に帰ることである。例えば、基本技をもう一度、初心に帰って稽古することである。一教、二教、三教、四方投げ、入身投げをやり直すことである。

また、呼吸法を研究することである。これらの基本技、呼吸法が質的にレベルアップすれば、大体の壁は突破できると思われる。逆に言うと、これらの基本技と呼吸法があるレベルで出来なければ、壁にぶつかるのは当然と言える。

次には、もっと厚い壁がその内に来るだろう。その時は、更に基本を掘り下げることである。例えば、基本中の基本の一教(腕おさえ)を、完璧を求めて稽古するのがよい。一教の中には、合気道の極意が沢山隠れていると言える。一教の大事さは、一教が満足に出来なければ、二教、三教、小手返し、呼吸投げ等々が出来ないからである。一教だけでなく、他の技でも出来たり、出来ると思うのは、相手が受けを取ってくれるからであって、それなのに自分の技が効いていると錯覚していることが多いものだ。

この後も厚い壁が何度も何度も立ち塞がり、それがどんどん厚くなるが、その度に基本に戻り、基本を更に掘り下げて研究するのがいいだろう。 つまり、基本が如何に大事かということになるだろう。基本の重要性を認識し、基本をより深く、広く研究しなければならない。換言すれば、上手下手は基本がどれだけ深く出来ているかによる、ということが出来るだろう。この基本というのは、基本の技、その裏にあるところの思想、哲学、こころである。

基本に戻り、原点に帰る。「急がば回れ」ということである。