【第111回】 技は足でかける

合気道は、技の形稽古をする。稽古を始めた頃は、基本の「技」を覚えるのも大変で、指導者が示してくれる技を目で捉え、頭に記憶して、体で再現するのだが、はじめは目を開いていて見てはいても、見たはずの技の姿が目にも頭にも残らないだろう。その内に、何回も稽古を繰り返していくにつれて、指導者が示してくれた技が"なぞれる"ようになる。本人はこれで合気道ができるようになったと思うものだが、外から見ていると、なぞれているのは手の動きだけであって、下半身の足の動きができていないのである。一般的に足が居ついて、手だけがバタバタ動いているものだ。

頭の働きは手に現れるといわれるように、頭と手とは密接に繋がっているようで、頭で考えたこと、やろうとした技の形を手でやるのはそう難しくないようだ。それ故、初心者はまず手に気がいき、手を遣いすぎることになるのだろう。

しかし、足が居ついたり、バタバタ使ったのでは、技は決まらない。足が居つけば、上半身、つまり腕の力で技をかけることになり、大した力は出ない。自分の体重を有効に使うためには足の捌きが重要である。

前述のように、人は手に気はまわるが、足にはなかなか気がいかない。足、つまり下半身は、手が頭で動くのと異なり、感覚で動くといわれる。手さばきや手の使い方を注意されれば誰でもすぐに直したり、覚えたり出来るが、足の使い方を注意されてもなかなか出来ないものである。足使い、足捌きは教えられるものではないのだから、自得していくしかない。それ故、自分で感覚を研ぎ澄ませて、その感覚に従って足使いの修練をしていくしかない。しかしこの修練は道場だけでは難しいので、街を歩くときも注意して足捌きの稽古をしながら歩くとか、山道を歩いて足の感覚を磨くべきであろう。歩くのが如何に難しいか、そして大切かがわからなければ、武道で使う足捌きなど分かるはずがない。

手と腹(体幹)とが一体化して働かなければ、技は効かない。また、足と腹・腰(体幹)がしっかり結んでいなければ、相手を技で倒すことはできない。ということは、手と足が結び、一体化していなければ、技は効かないということになる。手と足がバラバラで連動せずに使われていれば、技は無効果ということである。しかし、これが難しい。手と腹は結んだとしても、まず足と腹・腰が結ばない。足だけが前に出て、体が残っている。足は常に腹の下に納まるようでなければならないのに、足が出すぎるので、足と腹・腰との結びは切れてしまい、地からの力が体に伝わってこないのである。また足だけが前にでると、膝や腰を痛めることにもなる。

足と体幹が結んだならば、足と手を結ぶようにする。これはさらに難しいだろうが、ひとつひとつ問題を解決して、結ぶようにする他はない。これは、人が教えられることではない。感覚である。

手と足が結んで連動して使えるようになれば、それまで手でやっていたところを足で捌くことが出来るようになる。合気道で、技をかけるとき重要な法則の一つは、相手との接点の部位を動かさないことである。多くの場合、相手との接点の部位は手となるので、手は相手に接したまま、手を動かさないで相手を倒さなければならない。それには、足を使う他はない。足の捌きと重心の移動である。これが、技は足でかけるということだろう。

名人・達人は足で呼吸するとか、足に目をつけろなどといわれている。足が大事であるということである。合気道の技をかけるときも、手でかけるのではなく、足でかけるようにしたいものである。