【第4回】 一日は夜はじまる

陰暦(旧暦)(明治初期まで)では、一日(いちにち)は日没から始まると考えられていた。従って、年の初めの元日は大晦日の日没から始まるわけである。

新しいものが生まれる時は"闇(ヤミ)"からである。正月の年神様だけでなく、天の岩戸開き、竹取り物語かぐや姫、さらに人は体内に10月10日いてからこの世にでてくる。

夜は人間を"再生(サイセイ)"する時である。寝るとは日中消耗したエネルギーを再生することでもある。人間だけでなく動植物や自然も地球もエネルギーの再生が必要である。これらすべてのものの再生はやはり"闇(やみ)"の夜であろう。もし、夜がなく、人間や動物や自然に眠りがなかったら、行動する活力も出ないにちがいない。

夜はエネルギー再生と同時に物事のはじまる時でもある。
一般に素晴らしいアイディア、閃き等は寝ばなや寝覚めのときに出やすい。

冬は春の準備時。人は意識と無意識の世界から成り立っている。昼間は主として意識を使い、夜には眠っている時など無意識の世界に入っている。夢やアイディアが生まれてくるのは無意識の世界と接触している時だから。そういう時がないと人間の想像力は枯渇してしまう。武道はそういう無意識の世界とつながりがもち易く、その動きも活発になる。稽古をやっていても同じことを繰り返すのではなく、新しいやり方や原理を会得するにはインスピレーションが大切であるが、夜の眠りに入る時や覚め際にはそういうインスピレーションが得やすい。それを単に思いつきとして捨てるのではなく、自ら実験してみよう。ビジネスでも同じであろう。

瞑想、黙祷というのは昼に夜の状態を作り出し、無意識の力を呼び起こすことかもしれない。意識を消し、無意識の力を出やすいようにするのだろう。動く禅とも言われる合気道の稽古も、無意識の世界と繋がった稽古ができれば素晴らしい。

人間は生きているうえで、武道だけではなく、職業や芸能などを通して自然の原理を会得しようとしているのではないだろうか。会得というのは、知的理解と違って、納得するということでもある。もともと人間にはそういう知恵が備わっている。職人や村の古老にはそういう知恵があったので、尊敬された。今ではそういう知恵を得る機会が少ない。しかし、この知恵が主となる社会でないとその社会はうまく機能しない。体が持っている知恵に到達するには、正しい方法をやる必要がある。

新しいインスピレーション、アイディア、知恵を見つけるためにも、闇や、夜の時間を大切にしたいものである。