【第94回】 攻撃は気を入れて

合気道は、受けと取りが交互に攻撃とそれに対する「わざ」掛けを稽古する。まず決められた「形」(かた)を、正面打ちや片手取りなどで攻撃することになるが、この攻撃をしっかりやれば、自分にとってのよい稽古になる。しっかりした攻撃ができなければ、それを捌くことなどできるわけがない。つまり、しっかり正面打ちができなければ、正面打ち一教も、入身投げも出来ない。もっと分かりやすいのは武器取りである。剣もろくに振れないのに、太刀取りなど出来るわけがない。太刀取りをしたいなら、剣の素振りを十分しなければならない。同じように、正面打ちを捌(さば)くなら、正面打ちの素振りをしっかり稽古しなければならない。

開祖が居られたころは、正面打ちはしっかり打っていかないと、叱られたものだ。だから、入門当時は、骨と骨があたって痛くて腫れたものだった。しかし1〜2年もすると大分鍛えられるし、腕を回転させながらぶつけることを学ぶのか、痛みはなくなった。

時代も変わってきているので、このような稽古はできないだろが、攻撃はしっかりとやらなければならない。しっかりとは、以前のように相手の腕を叩きつけるのではなく、柔らかいが、気がはいり、中心を外さず、腕が折れ曲がらないよう、正確に打つということである。相手をやっつけるためではなく、自分の体つくりと「わざ」のためである。

正面打ちをしっかり打つということは、自分の腕を中心線上に真上にあげるわけだが、しっかりやれば、自分の中心線が分かり、上げ切ったときに肩が貫ける。また振り下ろすとき手側の足が進むので、ナンバの動きが身に着き、手先と腰(腹)と足が結びつく。横面打ちもほぼ同じであるが、正面打ちより脇を広げることが容易なので、肩を貫くにはよいだろう。

攻撃には、相手の腕をもつものがある。片手取り、両手取り、諸手取りなどである。これも触れているような取り方では、自分の稽古にも、相手の稽古にもならない。しっかり持つというのは、しがみつくのとはちがう。持っていて自分の体制を崩すのは駄目である。しっかり持ちながら相手の動きについていって、受身をとるのである。

受身をとる方は、逃げないで受け身をとらなければならない。それがルールである。受身を取りながら自分のための稽古をするのである。受身をとりながら相手を感じ、スキがあればいつでも反撃できるような気持ちと態勢を持ちながら動かなければならない。受け身を取る方も、攻撃をしているのである。また相手の手をしっかり握れば、自分の指、特に小指と薬指がしまって強くなるし、手と腹が結ぶようになる。

また半座半立ちで座している相手の片手を取りにいくときは、本来は相手に見えないよう、音を消していかなければならないわけだから、盗み足(音のしない歩の進め方)の稽古になる。 

攻撃をしっかりしないと、自分の稽古にならないどころか、体をますます固めてしまって、かえって害になる。例えば、正面打ちを肩を貫かずに打っていけば、肩は固まっていくし、攻撃で肩が貫けなければ、自分が技を掛けるときは、相手とぶつかるわけだから、ますます固まってしまうことになる。まず攻撃をしっかりして、体をつくったほうがよい。