【第86回】 肩を支点に

合気道の基本の形で「正面打ち入身投げ表(おもて)」は、初心者が苦労するものの一つである。最近の稽古では「裏」は頻繁にやるが、「表」はあまりやっていないようだ。入身投げの裏は、誰でもなんとか格好をつけることができるが、表は理に合った合気道をやらないと上手くいかない。合気道の形稽古の基本は「表」といわれているので、入身投げも表がきちんとできなければ、先に進めないことになる。

「正面打ち入身投げ表」が上手くいかない原因の一つに、肩がある。肩を捻って使っていることと、動かしてはいけない支点となる肩を動かしてしまうことである。肩を捻ってしまうと、体の面が崩れて、重心の移動がスムースにいかないし、迅速な動きができないことになる。

また、支点を動かすのはよくないことである。相手の小手が自分の小手と接したら、その接した小手の点とその側の肩を動かさずに、そこを支点とし反対側の肩を進めなくてはならない。このとき注意するのは、接しているところにある手が顔の前にあるようにすることと、肩の重さが踵に落ちるようにすることである。つまり肩と足が一緒に、そして左右陰陽で動くことによって、技がきまるのである。技は手で決めるのではない。

この動き及び肩の使い方ができないと、「正面打ち入身投げ表」はできないし、突き、短刀取り、太刀取りなどに進むこともできないことになる。

合気道の肩をつくるには、まず左右の肩とその間の体幹及び顔が、立っていても動いていても面になるようにしなければならない。肩、体幹、顔を捻らないで面のまま使うように、そして肩と体幹と顔をバラバラにならないよう結びつけるように、注意しなければならない。これは入身投げだけではなく、すべての形と技の稽古で注意してやらなければならないことである。

肩を踵に結び、前にある肩と踵を支点にして動かさず、後側の肩と踵を進める動きは、所謂「ナンバ」である。歩を進めて着地するとき、肩の重みが踵に来るようにする。この歩の進め方の稽古は、通常の歩行でも稽古できる。混雑した街中でもこの歩行をすれば、前から来る相手とぶつからなくてすむ。

合気道で相手を倒すのは、下手は手、上手は足である。合気道の動きをするなら、肩と結んだ足運びと、それを支点とした運用の研究をしなければならない。