【第83回】 こよりの教え

初心者は「技」を使うとき手をむやみに動かしてしまう。長年の習慣から手に頼ってしまい、また人の本能からどうしても持たれた部位を動かしてしまう。持たれた手を動かさずに「わざ」を使うのは修練がいる。「わざ」を使う場合、動かすのは相手との接点にある手ではなくて、手の対極にある腹や腰である。

手をむやみに動かすということは、手の対極や体の中心が動かず、末端を動かしているということであり、これを手を振り回すといい忌み嫌われる。これでは十分な力が出ないので、力が十分に相手に伝わらないことになる。また、持たれた手を動かしてしまえば、手が相手と離れてしまい、力が相手に伝わらないだけではなく、離れた相手の手で攻撃を受ける危険性ができてしまう。

合気道の「わざ」の基本の一つは「接点を動かすな」である。接点を動かしてやるのは争いになりやすく、そうなるとますます「わざ」が効きにくくなる。 大東流合気柔術の中興の祖、武田 惣角は「こより」を持ってその「こより」を掴ませ、「こより」を持ったまま、「こより」を切ることもなく、離されることもなく腰投げをしたといわれる。もし彼が「こより」を持つ手を少しでも動かしていたならば、「こより」は切れているはずである。ここに相手との接点である手を動かさず、対極を使うという極意があると思う。

これは極意であるから合気道のすべての形(かた)と「わざ」に通ずるわけだが、四方投げ(片手取り)でやってみるのが分かりやすい。四方投げは持たれた手を動かしてしまうと「わざ」が効かないだけでなく、足が居ついて動けなくなったり、相手の脇を絞めてしまったり、相手の領域内の前面に身をさらすことになる。特に合気道を知らない人に四方投げをかけた場合、手を少しでも動かせば技はかからないだろう。手を動かすということは、手先と腹や腰が連動しないということでもある。

四方投げを何度も々々も稽古して、手をむやみに動かさずに腹や腰を動かすことによって、手が動くようにしたいものだ。四方投げの他に、この持たれた手を動かさないための稽古には、片手取り転換法、片手取り呼吸法、諸手取り呼吸法などがあるだろう。これらの形(かた)も相手に持たれている手の部位を少しでも動かせば上手くいかないはずである。これらの形で、相手がしっかり掴んでいない場合でも、相手の手がくっ付いて離れないようになれば、こよりの教えは分かったことになるだろう。