【第82回】 仙骨(せんこつ)

稽古で「わざ」を使うなど、ひとが動作をするときには、重心がしっかり安定していなければならない。ひとの重心は「仙骨」の2番目の前あたりにあり、またここは軸意識を司る中心とも言われる。

仙骨は骨盤の真ん中にあって、背骨の一番下にある腰椎5番につながっている。「仙骨」は「仙人の骨」と書き、英語でもセイクラム(sacrum=sacred bone 「聖なる骨」)と呼ばれるように、西洋でも古くから不思議な力をもつ骨と認識されてきた。

踵から仙骨へ、さらには仙骨から背骨(脊椎)を通って蝶形骨(頭蓋骨の中心に位置し、脳の働きやホルモンバランスを司る非常に重要な骨頭蓋骨の一つ)まで神経がつながっており、その要になっているのが仙骨である。
また臀部から大腿後面と下腿および足に分布する神経はすべてこの「仙骨」からでているといわれる。

このように「仙骨」は人間の精神的、肉体的な健康の鍵を握る。「仙骨」は手足を自由に動くために重心になるだけではなく、足の微妙な動きを脳に伝えたり、脳の指令を手足に伝える中継点としての重要な働きがあるようだ。

稽古で「仙骨」を活用するには「仙骨」を返さない(反らせない)で寝せろといわれる。これはお辞儀をして腰を曲げるときの「仙骨」の状態であろう。この倒した状態を維持したまま体を起こし、下半身の力を抜き、踵に重心を落とすと仙骨の感じがつかめる。この感じが特に分かりやすいのは四股を踏んで、仕切りに入るときの姿勢であろう。

ひとが動作をする場合、例えば歩いたり、走ったりするときには、重心が大事である。他の部位は動いても、支点となって動かない部位である。それが仙骨であろう。特に山や坂を軽快に歩くときは、「仙骨」が支点になっていて、他の部位が緩んでいることが自覚できるし、足、背骨それに手、頭がこの一点の「仙骨」でつながっていると感じることができる。

坐技呼吸法のときは「仙骨」を意識して、仙骨から力を出すようにやると力が出る。半身半立ちの四方投げで仕手が相手の手を取りに行くときに使う「どろぼう足」「忍者歩き」「猫足」のように、相手に悟られず、素早い軽快な足使いをするときは、「仙骨」に重心を置くと、他の部位の力が抜け、身を浮かせることができる。

歩いたり、モノを持ったり、また合気道の稽古で「わざ」をかけるときにも、仙骨に重心(支点)がくるようにするといい。逆にここに重心(支点)がこないと、その上の腰推に負担がかかり、そこを痛めることになって、いわゆる腰痛やぎっくり腰を引き起こすことになりかねないので注意が必要だろう。帯を「仙骨」の上からしっかり締めて稽古するといいだろう。