【第78回】 踵

合気道、武道の歩法とは、基本的には踵(きびす、くびす、かかと)に重心を乗せ、踵を支点として、重心の移動で歩を進めるものである。一般の人が歩いているような、つま先で蹴って進むものではない。剣豪宮本武蔵の「五輪書」の中の「足つかひの事」に、「足のはこびやうの事、つまさきを少うけて、きびすをつよく踏むべし。足つかいは、ことによりて大小遅速はありとも、常にあゆむがごとし。」とあるように、歩を進めるときは、踵を踏むのである。「踵」という字は、「足」に「重み」と書くが、その感覚で歩をすすめなければならない。

また相撲では、「足の踵を土俵に着けないと力が逃げる」という。

武道では、つま先で蹴って歩きだすとどうしても予備動作が必要となり、相手に察知されてしまうので、避けなければならないことである。踵で歩をすすめると、自分の体の倒れるときの重力を使って進むので、予備動作がなく相手は対処が難しくなる。また地球が引っ張ってくれる力を使うので、力が出るし、疲れないものだ。

道場での稽古のときだけでなく、日頃から踵で歩く習慣をつけるべきであろう。最近は、多くの稽古人がつま先で歩を進めている。これは技をかけるのに力が出ないだけでなく、膝に負担がかかりすぎて膝を痛めてしまうことになる。早急につま先歩きを変えないと、稽古もできなくなってしまうだろう。

つま先歩きから踵歩きに変えたいなら、一番いい方法は山歩きであろう。つま先では登るのも下るのも難しいので、必然的に踵に重心を落として歩くようになるからである。特に疲れてくれば踵でしか歩けなくなる。さらに、街を歩く際も踵で歩くように心がけなければならない。坂や階段も踵で上ると速く、そして楽に上れるものだ。勿論、この際はナンバ歩きで手と足が連動して動いて、重心と支点が踵に落ちるようにし、その重心・支点の移動で歩かなければならない。通常の歩法が踵歩きでなければ、道場での踵歩きは難しいだろうし、技の進歩も難しくなる。くれぐれも日頃の歩き方が大切である。