【第77回】 骨盤底横隔膜と呼吸

合気道だけではなく、スポーツでも芸能でも、呼吸(息の出し入れ)は大切である。呼吸が体の動きにあっていないと力がでないし、技も効かず、息が乱れて疲れたりする。呼吸は重要だが、呼吸の仕方は他人にはなかなか教えられないものなので、自分で研究して会得しなければならない。

呼吸には吐くことと吸うことがあるが、最初は吐く練習をする方がやりやすいし、効果的であるようだ。何故ならば、呼吸に関する筋肉は、吐くために働く筋肉がほとんどであるといわれているからである。

呼吸は胸郭と横隔膜でできるが、胸郭でやると効率が悪いし、肩があがったりするので武道では歓迎されない。横隔膜は通常、肋骨の内側につく「呼吸横隔膜」をいっているが、骨盤底には骨盤底筋と呼ばれる筋肉群があり、「骨盤横隔膜」を構成する。この「骨盤横隔膜」は激しい気合などを掛けるとき肛門を引き上げ、尾?骨をねかせたりする働きがある。つまり武道の理想的な呼吸は「呼吸横隔膜」と「骨盤横隔膜」の両方を使ってやることである。これによって深い呼吸ができると、息が長続きし、大きい声も出るし、力も出る。また体の各部が柔軟になるので、技を使う場合も相手をくっつけて、重力を効率よく利用できるようになる。

股関節は意識してもなかなかゆるまない関節であるが、息を吸うと「骨盤横隔膜」が開き、それによって股関節がゆるむ。相撲の四股は股関節を緩めなければならないが、足を上げるときは息を吸い(息を入れ)、上がりきったところで「シツ」と短い気合(息を吐く)と共に下ろす。息を吐くと股関節を固めることになるので、股関節を緩めるストレッチの呼吸は注意しなければならない。

大腰筋は「呼吸横隔膜」から「骨盤横隔膜」を通って脚につながっている2つの横隔膜を縦断する深層筋である。従って、この「骨盤横隔膜」を上下して鍛えることによって、この深層筋が鍛えられることになる。「骨盤横隔膜」は感じることはできないが、横隔膜が付いている骨盤底は、正座や胡坐で深く呼吸をすると上下するのを感じることができる。

合気道の呼吸はこの2つの横隔膜を広げたり縮めて空気の出し入れをするので喉で空気は出入りするが、喉で呼吸して横隔膜を広げたり縮めるのではない。特に下の「骨盤横隔膜」を意識して呼吸をすると、空気が沢山取り入れられ、酸素も多く貯めることができるので、息切れしにくいし、体のツッパリが取れて、重心が落ち、柔軟に動けるようになる。「骨盤横隔膜」が十分下がると、下半身の力が体幹を通って手先に効率よく集まり、呼吸力(遠心力と求心力が合わさった力)が出て、相手とくっ付いたり、相手の力を抜くことができるようになるだろう。

「骨盤横隔膜」を意識した呼吸をしたいものである。

参考資料: 「能に学ぶ身体技法」(ベースボール・マガジン社)