【第74回】 首

合気道や武道では手足のことはよく注意して稽古するが、首のことはあまり注意されないようだ。40数年前、私が合気道を始めた頃は、「武道練習(合気道)」の絵図にあるように、まだ柔術的な形や技が多く稽古されていた。その中には首を攻めさせて、それを返して投げたり押さえたりするものがあったし、首を捻って投げる技もあった。最近は首を絞めたり、首を捻って投げたりする形は、道場ではほとんどやらないし、できる人もほとんどいなくなってしまったのではないか。このような稽古は危険であるので敬遠されるのだろうが、無くなってしまうのは残念である。高段者対象の特別講習会などで教え、継承していくべきだろう。

首を絞めたり、捻られたりすれば、首はしっかりする。しっかりした首になれば、容易に首を絞められなくなるだけでなく、投げられても頭を打たず、頭の怪我や事故を少なくできる。しっかりした首をつくるには、僧帽筋(肩から首)と胸鎖乳突筋(鎖骨から耳の後)を鍛えることである。首がしっかりすると、首の機能がよくなる。

技は主に手足でかけるが、頭の重さを正しく使わないと技は上手く効かない。重心を移動して、自分の体重を相手との接点に掛けるとき、頭の重さがかかるようにならなければ、力は分散してしまい、軽くなってしまう。この頭の操作は首である。首が弱ければ上手く頭の操作はできない。四股を踏むときも、上げる足と首を落とすバランスがとれないと、足が上がらず、バランスを崩してしまう。

しっかりした首をつくるには、まず受身を沢山とるのがよい。はじめは一人で前受身、後受身をとり、それができるようになったら、同輩や先輩に投げてもらう。どんな人の受け身でも取れるようになれば、この受身の稽古は卒業ということになろう。
もう少し首を鍛えたい場合は、
〇 ブリッジ
〇 フロント ブリッジ
の鍛錬で補えばいい。

あとは形稽古で頭、首を意識して使って稽古することである。四方投げ、胸取り、肩取りなどは手の代わりに首(頭)を使うとよいものもある。

首を鍛えるには、前述のように受身の稽古があるが、この他、合気道の次のような形を通してやるのもいい:

〇 前から両手首絞め
〇 後からの両手首絞め
〇 後片手取り首絞め
〇 首投げ各種(絵図参照)

その外、街を歩くときに首の筋肉と頭の重さを意識して歩くといい。左足が着地すると左側の僧帽筋に力が伝わり、右を着地すると右側の僧帽筋に力が伝わる。足と首、そして頭が繋がっている軸感覚を持てるように歩けばよいだろう。