【第650回】 柔軟運動と息づかい

合気道の形稽古で技をかけ、体をつかう際、体は柔軟でなければならない。こんにゃくのような芯のないのも駄目だし、枯れ木のような硬直した体でも上手くいかない。

体は手入れをしないと、カスが溜まって筋肉や骨が固まり、柔軟性がなくなってくる。だから、禊ぎや柔軟体操をして、筋肉や関節を伸ばすのである。
合気道家は勿論、基本的には、相対での形稽古で体を柔軟にする。合気道などで、体を動かしていない人と比べれば、その差は歴然だろう。しかし、合気道の修業は、他人やその弱点と比較して自分が上だと満足するものではない。他人ではなく、自分に打ち勝つ、自分との戦いのはずである。今日の自分に勝ち、新しい自分を見つけ、自分をつくり上げていくのである。更に、自分をより向上させることである。だから、体を更に柔軟にしたいと思うものと考える。

体を柔軟にする方法は、先述では、合気道の相対での形稽古である。投げたり、受けを取ることによって、体がほぐれて、体が柔軟になるわけである。初心者の内は、とりわけ受けを取ることによって、柔軟な体ができるはずでる。

相対の形稽古で体が少しほぐれてくと、次に、更に体を柔軟にしたくなるはずだ。そこで自主的に、柔軟体操で更に体を柔軟にしようとするだろう。
誰もがやるのが開脚で胸を床につける柔軟運動である。足裏と腰まわりの筋、筋肉、関節などを伸ばすわけである。
しかし、この開脚の柔軟体操でもやり方に段階があると思う。

最初の段階は、息を吐きながら、胸を床につけようとする動作である。これは、初心者は勿論の事、ほとんどの稽古人やっているやり方である。息を強く吐いて、胸を思い切り床につけようとするやり方である。
しかし、これには限界があることがわかってくるはずだ。ある段階から体が柔軟になっていかないのである。逆に固まっていく人さえあるようだ。
これはこの後分かることになるのだが、柔軟になるための理に反しているから、無理があるのである。

次に、息を吸いながら、体を倒していくと、胸が床に近づいたり、床に着くようになるのである。そして分かったことは、息を吐くと、体は固まり、息を吸うと、体は伸びるということである。体を伸ばすためには、息を吸わなければならないのである。
この息づかいで、他の体の箇所(手首、肘、肩、首等)の柔軟運動をやればいいことも分かった。
この息づかいに気がついた時は、大発見をしたと思い、これが究極の柔軟運動の息づかいであると思ったものである。

ところが、合気道の技はイクムスビの息づかいでやらなければならないという教えがあることが分かってくるのである。柔軟体操もこのイクムスビでやると、これまでに無かったような効果が出てくるのである。
そしてこれこそが、柔軟運動の最終段階の息づかいであろうと思ったのである。
しかし、まだ、この上の段階の息づかいがあったのである。

その息づかいは、言うなれば、天地の息に合わせるということである。
天からの息を下腹に集め、その下腹を緩めると、息は天と地の上下に流れていき、体の力みは取れ、体が柔らかくなる。柔らかくなったところで、腹に天と地からの息を集めるのである。

この息づかいは、他の体の部位の柔軟運動にもつかうと効果的である。例えば、首が凝って痛くてまわらない場合、息を吐きながらまわしたり、息を吐いてまわそうとしても痛くてまわらないし、イクムスビでもスムースにまわらないはずである。この天地の息づかいだと、痛くもなく、スムースにまわるのである。
それだけでなく、この天地の息づかいは技にもつかえる息づかいである。これは当然で、本来、準備運動や柔軟運動と形稽古での技づかいの息づかいは同じはずだからである。
この天地に合わせる息づかいは最近の作なので、まだまだ不十分である。形稽古の中で身につけていきたいと思っている。