【第635回】 腰腹も陰陽十字々々で

合気道は技を練って精進していくわけだが、技を練るにあったって、体のつかい方は大事であることは云うまでもない。しかし、それは頭ではわかっているものの、具体的に、体をどのように使えばいいのか分からなかったり、蚊帳の外に置き去りにしてしまっているのが多いようだ。
合気道の技は、体を最大限に使わないといい技にならない。いい技とは、いろいろな定義ができるが、例えば、武道というより武術的な観点から、相手を殲滅する威力のある技ということであるし、また、愛の武道を追求している合気道の観点からは、相手と一体化してしまい、相手を心から承服させる技ということになろう。

体を最大限に使うということは、体を最大限機能させることである。体が最大限機能するためには、最大限機能する体をつくること、そして法則に則った、理に合ったつかい方をすることである。体を構成する各部位を鍛え(強固にし、そして柔軟にすること)、更に、その各部位を一つに結んでつかえるようにするのである。その典型的なものが、手である。手首から先の手首や指、腕と肘、上腕と肩、胸鎖関節を各々鍛え、各々がつかえるようにし、そしてそれが一本につながって、長い手としても使えるようにするのである。

技を掛けるにあたって、技は手で掛けるが、手だけではいい技にならない。足と腰腹の支援が要るのである。足と腰と手が一本の“手”にならなければならないのである。中心になるのは腰腹である。腰腹が動き、それに足がついて動き、そして手が働くことになるのである。つまり、腰腹と足の動きが伴わない手では、技にならないのである。

手は腰腹と足でつかうが、足は腰腹でつかうことになり、腰腹が体づかいの中心になるわけである。
従って、腰腹を如何に上手くつかえるかによって、技の良し悪しが決まることになるわけである。そこで今回は、腰腹をどのように使えばいいのかを研究することにする。

まず、腰腹について説明する。通常は、腰腹を腰とか腹とか書くものだが、敢えて、腰腹としたのは、腰と腹を自覚して使いたいからである。初心者はこの自覚がないために、腹を使うところを、腰をつかってしまって腰を痛めてしまうのである。
腰腹の腰は、「体」であり、体の中心であり、支点であるから、動かさないのが原則。腹は「用」であり、腰を支点とし用をするところである。腹には大いに働いてもらわなければならないのである。腹に働いてもらうために腰はしっかりしてもらわなければならないから、腰と腹の両方の働きによって、力が出せることになるのである。

人の最大の力は体重であろう。技で大きな力、強い力を出すなら、己の体重を如何に上手く活用するかということになる。体重を損なうことなく活用したり、体重に加速度をつければいい。

己の体重を損なうことなく技につかうためには、体がつっぱったり、相手に弾いたりしない事である。相手と結んでしまい、天地の息(自然)に身をおくことである。そうすれば、己の体重を感じるはずである。二教裏が効く時は、己の体重が相手の手首に掛かっていることを感じるはずである。また、一教でも入身投げでも、最後の投げや抑えは、相手に己の体重がどれだけ掛かっているのかを自覚できるだろう。

さて、体重だけでは不十分の場合は、体重に加速度をつけて、より強力な力を出さなければならない。それが腰腹の陰陽十字である。腰腹が足を右、左と陰陽で動かすが、腰腹は足の上にあって陰陽に動く。しかし、只、腰腹が陰陽に動いても力は出ないし、相手に腹を向けて向き合ってしまうことになる。初心者の入身投げの姿がその典型である。これではこちらの体重が十分に使えないどころか、受けの相手に頑張らせることになる。

この問題を解決するため、そして己の体重を加速させるためにも、足と腰腹が陰陽で右、左と動いたら、即、十字に腰腹を十字(直角)返すのである。一つの技には、腰腹を十字に返すところが最低二か所あるから、腰腹は陰陽十字を二回、だから、陰陽十字々々となるわけである。入身投げでも、四方投げでも、呼吸法でも陰陽十字々々である。

この腰腹を陰陽十字々々につかうと、体重が加速する他に、相手の頑張ろうとする気力を消滅させるという効能も生まれるのである。十字の箇所で、相手はこちらの腰腹を中心に円を描いて回り、十字の形に成り、脇をさらすからである。

腰腹を陰陽十字々々につかうためには、やるべきことがある。その内の一つは息づかい、イクムスビに合わせてやることである。これでやらないと、腰腹は十字になりにくのである。また、進める足は踵から着地しなければ、やはり腰腹は十字になりにくいはずである。後は省略する。