【第620回】 手と足の連動の働き

合気道は技を練りながら精進しているわけであるが、精進すればするほど体の摩訶不思議を思い知らされる。入門した頃は、手足は「自分の手足のように」思うように動いてくれるものだと思っていたし、手足や体のことなど気にもしなかったものだ。
最近になってようやく、手足にも体の法則があり、その法則に則ってつかわないと技が上手くいかないだけでなく、体に拒否され、愛想をつかされ、体を壊してしまうということが分かってきた。

体の働きは非常に繊細であり、そのデリケートな働きをしてもらえば繊細な技がつかえるようになるはずである。ただ、手足を無暗につかったり、動かすのではなく、体と対話しながら、体の指示に耳を傾けて体をつかうのである。

その例として、最近、手足が教えてくれた事を発表しよう。
それは、手と足の連動の働きの関係である。これまで手のつかい方、鍛え方と足のつかい方や鍛え方を別々には書いてきたが、手と足の連動の関係での働きが大事であることが分かってきたのである。
これまで、同じ側の手と足が右左、陰陽でつかわなければならないと書いてきた。手と足は腰腹と結び、腰腹によって陰陽で動くのである。これは一つの法則である。一教でも入身投げでもこの手足の法則を無視しては上手くできないはずである。

そして新しい法則である。地にある足の側の手は上がらないし、上げては駄目だということである。例えば、右足に体重が落ちている場合、右手を上げては駄目だということである。初心者は、俺の手は上がるよといって上げるだろうが、その手は手先で上げている手で、手を振り回す手で真の力が無く、ちょっと抑えられたら動かなくなる手である。

真の力を出す手は、腰腹である。地にある足の腰は固定して動かないわけだから、手も動かないのである。従って、手は反対側の足に体重が移動すると上がるのである。呼吸法でも四方投げでも、この理によって手を上げるようにしなければならないことになる。

地にある足の側の手は上がらないが、手は下に下げることはできるし、強力な力が出る。「隅落とし」などはこの理によるものである。

更に、手と足の連動の働きがもう一つある。先ほどと矛盾するようだが、地にある足の側の手を上げる事ができるのである。足から地に力が下りると同時に手が上がり、力が上にいくのである。言ってみれば、バーベルを上げる時の手と足の関係のようなものである。この手と足の働きが必要なのは、正面打ち一教での肘を抑えて上に上げる際である。この手と足の連動の働きがないと、一教は上手くいかないはずである。正面打ち一教が上手くいかない最大のポイントはどうもここにあるようである。

手と足が連動して上手く働いてくれるためには、腰腹との連動が大事だし、陰陽と十字、そして息づかいが大事である。体の声に耳を傾けて、体をつかっていかなければならない。