【第605回】 十字になる踵(かかと)・足関節を科学する

第602回「踵で十字」第604回「十字の踵で」で、踵の事を書いてきたが、今回はもう一度、踵に関して書くことにする。

これまで合気道の技の錬磨では重要な働きをするこの「踵」を、一般的な言葉として、また、合気道の稽古での用語としてつかってきたが、これをもう少し科学的に深く掘り下げてみたいと思う。

踵は足の一部である。手が手先から、手首、腕、肘、上腕、肩、胸鎖関節までの広い領域を指し、また手先を意味するのと同様、足も、足先から、足首、下腿、膝、上腿、股関節までを網羅した言葉であり、そして足先の足という意味もある。
この内、踵は足先の足に当たり、手で言えば、手先の手の掌底に当たるだろう。

まず、踵の意味を再確認する。踵は、足の裏の最も後(背中側)の部分である。きびすとも言う。
この踵が働くためには、働くための足の仕組みと機能があるはずである。
そこで医学書を見てみると、踵の動きを可能にするのが「足関節」であるという。

「足関節は距腿関節とも呼ばれ、下腿(脛骨、腓骨)の下端がつくる凹みに距骨(滑車)がはまり込む形で形成される。蝶番関節(らせん関節)に分類され、底面・背屈合わせて約55°の可動域(図参照)を持つ。背屈位(つま先をつく)では距骨が脛骨と腓骨にまって固定されるが、底屈位(踵をつく)では緩むため側方への動きが可能となる。(人体解剖ビジュアル・医学芸術社 P.36)

踵(踵骨部)がよく働くということは、足首の運動がいいということになるが、「足首の運動には足関節の他に足根骨どうしの連結(側根間関節)が関与する。靭帯で補強されているため個々の関節の可動域は小さいが、全体としてねじれ運動などに働き、底屈時には足の内反、背屈時には外反を起こす。特に裸足歩行の際に顕著で、これを足のあおりという。
(人体解剖ビジュアル・医学芸術社 P.36)

これらから踵がよく働くためには、踵を底屈位と背屈位につかうことになる。
まずは、踵を地に着け底屈位で足を内反(十字)にし、そして爪先を地に着け背屈位でしっかりした足(脚・脛骨と腓骨)をつくる。とりわけ正面打ち一教、四方投げ等は、はこれでやらないと上手くいかないはずである。

有川先生がよく言われた、「技を掛ける際、足は踵から着け」ということが、これまでは何となくわかっていたが、これで裏付けがとれてはっきりした。
また、背屈位で爪先から着いてしまえば、足(脚・脛骨と腓骨)は固定するから、これを内反しようとすれば、足も体も捻じれるから、足首や膝、そして腰をいためることになるわけである。

これで踵を科学したことになるだろう。