【第581回】 もう一つの無重力化

前回の第580回「大きく重い相手を導く」で書いたように、大きな相手、重い相手でも技が効くようにしなければならない。そのためには相手を無重力化することが必要になり、体と息と心を8の字につかわなければならないと書いた。相手が無重力状態になれば、相手の体力や体重が消えてしまうわけだから、相手の体格や重さは関係なくなってしまうわけである。

前回も書いたように、8の字に体をつかうとは、まずは腰を十字、十字、十字に返すことにより○と○ができ、これが連動することによって∞(8の字)が出来、そしてこの○の突端で相手は無重力になるのである。片手取り呼吸法や正面打ち入身投げ等でその感覚が掴みやすいだろう。

さて、今回はもう一つの無重力化である。受けの相手の体重を無重力にしてしまうのである。先の8の字による無重力化はどちらかというと、水平方向での無重力化であり、遠心力と求心力の働きによるものであるが、もう一つの無力化は、天地の気と息に合わせた縦の動きになる。
それが分かり易いのは正面打ち入身投げや天地投げ等だろう。正面打ち入身投げの場合、相手の打ってくる手を、息を吐きながらこちらの手でくっつけ、そして息を入れながら、己の体の重心を他方の足に移し、地にある足側の手で相手の肩を、力ではなく気持ちで下の地の方に抑え、他方の手はその足元から上がってくる気(エネルギー)とともに、力ではなく心で天に上げると、相手は無重力化し天に上がってくる。大きな相手、重い相手でも自ら独りでに浮いてくるので、相手の重量等は関係なくなる。目に見えるものからの脱出であり、魄の稽古からの脱出といえるだろう。
これが合気道が求めている、魄に頼らない技づかいということになると考える。

勿論、技が効く大きさや重さには限界がある。それはその個人の力によるからである。3メートルの巨人や300キログラムの相手を導くのは難しいだろうが、それができるように一歩でも半歩でも近づくことが大事であり、少しずつでも力がつけばいつの日か出来るようになると信じる事である。
また、そのためには土台となる魄(腕力、体力)なども引き続き鍛えていかなければならない。