【第57回】 地と手をむすぶ

合気道の稽古で、片手を取られたところから技をかける場合など、取られた手が生きていないと、技がかからないだけでなく、手を押さえられたり、脇や下半身ががら空きになってしまうものである。相手に取らせた手は、相手が上げることも下ろすことも出来ないような手になっていなければならない。そのためには、手先まで力が通り、手先と腹や足先、それに地と結んでいなければならない。

地の力を手先と、あるいは手先の力を地と結ぶためには、道場で意識した稽古をしなければならないが、相手もあることなので、それだけに集中するのは難しいだろう。あるテーマ、課題を研究したり稽古するのは、自主稽古での一人稽古がいい。相手もいないし、邪魔するものがないので、いろいろ自由に試すことができる。

地の力(エネルギー)を手先にむすぶ一人稽古の例として、稽古衣が入ったバッグを手に提げて歩くことである。ポイントは、まず、小指と薬指を締めてバッグを持つこと。人差指や中指で持つと、力が身体の前面や肩にかかってしまう。次に、ナンバで歩くこと。ナンバで歩くと、足が地に着くと同時に、バッグ重量がその足にかかり、地に足とバッグの重量が入り込んでいく感覚になる。バッグを多少振って歩いても同じ感覚になるようになる。バッグの重さが、同じ側の足に真上から十分に乗るようにすることである。

稽古衣を入れたバッグは、通常、4〜5キログラムほどあるので、ただ持っているだけでは重くて嫌だと思いがちである。だから、ほとんどの人はリュックサックなどで担いでくる。しかし、担ぐのは楽かも知れないが、稽古には結びつき難い。重いバッグも稽古の道具、サポーターであると意識転換をすべきである。かって、故有川師範とご一緒したときは、よく先生のカバンをお持ちしたが、師範が「カバンを持つのもいい稽古となる」と言われたのは、このような意味だったのだろう。

カバンやバッグを持って歩けば、地の力を手先に伝える稽古、手先の力を地と結ぶ稽古になるだけではなく、肩を貫く稽古、肩を回す稽古、ナンバの稽古、そして足、脚、腰、肩、腕、手先などと支点を変える、力を移動する稽古もできる。

バッグでの稽古である程度できるようになれば、バッグを持たず、素手でも手先と足や地とをむすび、しっかりした手ができるだろう。稽古に来るときはバッグは担がず、手に持ってくるのもよいものである。