【第562回】 カバンで鍛える

初心者の内は、稽古は道場に行かないとできないものと思っているが、上達するにしたがって道場だけの稽古では物足りなくなってくる。家で木刀や杖を振ったり、山歩きで足腰を鍛えたりするのである。
更にその自主稽古が発展すると、風呂に入っているときも、街を歩いたり、散歩しているとき、また道場へ通う道すがらや電車の中でも体を鍛える稽古をするようになる。

稽古はどこでも、いつでも、やろうと思えばできるものである。
それで今回は、道場に道着を入れたカバン(バッグ)を下げて行く際にもいい稽古ができることを書いてみる。
まず、道場に行くには道着を持参するわけだが、それも稽古であると思わなければならない。というより、稽古に結びつけなければならないと考える。少しでも楽しようと、肩に下げたり、リュックサックで背負ってしまえば稽古にならないし、かえって体を壊すことにもなる。

有川先生は、稽古の後にご一緒した時先生のカバンをお持ちしたのだが、先生からカバンを持つのはいい稽古になるといわれていた。当時はその意味が良くわからずに、これまでその意味を知りたいものと道着を入れたカバンを持って歩いているが、最近、その意味が分かってきたのでまとめてみることにする。

  1. 肩を貫く稽古になる:カバンを持つにあたって最も大事な事は、肩で持たない事であり、肩を貫いて腰腹で持つことである。これは技を掛ける時と同じである。手の力が肩に止まってしまえば、力は出ないし、肩を痛めることになる。
  2. 手先と腰腹を結ぶ鍛錬になる:カバンなどの重さのあるものを持たずに歩いても、手先と腰腹を結びつけることは難しい。つまり、手先と腰腹が結んでいるという感覚が得にくいのである。重さのあるカバンを持つと、腰腹と手先がしっかり結びつくことが感じられるのである。
  3. 指が鍛えられる:カバンは五本の指で握ったり、包み込んで持つので、各々の指を意識してつかえば、その指に気と力が流れ、その指が鍛えられることになる。
  4. 握力が鍛えられる:更に、五本の指でカバンの持ち手を思いっきり握り締めたり、緩める運動をすれば手の握力が鍛えられる
勿論、仕事での書類入れのカバンでも同じように鍛えることができる。
しかし、カバンでこのように鍛えるためには息と合わせてやることと、ナンバで歩くことが必要である。