【第560回】 締まる指 折れない指

相対で技を練り合っているとわかってくるが、手の五本の指が締まれば締まるほど技は効いてくる。これまでお会いした、先生方や先輩で技づかいが上手だった方々の指の締りは強力だったことが、それを物語っている。

今でも忘れられずに、体にしみついているその強烈な感覚は、有川先生の指の締めの力である。後で指の鍛え方を書くが、手の指の最初と二番目の関節は鋭角(90度以内)にならなければならないが、或る時、有川先生にやってみろと云われて、指を曲げて、こうですかといって出した途端に、鋭角になっていないと、鈍角にある関節をその強烈な指先の力で押さえられたのである。一瞬、折れたかと思ったが、幸い無事であったものの、その痛みは数日続いていた。先生のあの指先の強力な力と集中力は、超人的であった。今思えば、あのような強烈な技をつかわれた裏には、強力に締まる指をお持ちだったのだということである。

手の五本の指が締まれば締まるほど技は効いてくることは確かである。四方投げでも、二教裏でも、指先の締りが悪ければ技は効かない。
また、指の締りが悪ければ、手の内に隙間ができてしまい、堅固な拳(こぶし)が握れないし、突いても怪我をするといわれる。
更に、指がしっかり締まらなければ、逆に指先が十分に伸びないし、張らない。

指が締まるためには、指が張り、伸びなければならないのだ。
指を締めるために、締める鍛錬だけをしていても限界があるし、張る、伸びる指をつくるためにそれだけやっていても効果は少ない。陰陽双方で鍛えなければならない。所謂、相乗効果である。

締まる指をつくるためには、普段の相対稽古で鍛えていけばいいのだが、相対の稽古では、相手に気持ちがいってしまって、一つのことに集中するのが難しいから、自主稽古の一人稽古で鍛えればいい。その稽古法として、
先ず、指先の関節を鋭角にする稽古である。
一番目の関節と二番目の関節を直角になるように、他方の親指と人差し指の先の腹で、息を少し吐きながら押さえる
他方の親指と人差し指の先の腹で、一番目の関節と二番目の関節が直角になるように、息を入れながら思い切り押さえる。
息が十分入ったところで、今度は息を吐きながら、その箇所を更に強く抑える。
これを小指、薬指、中指、人差し指とやっていくのである。
注意しなければならないのは、Aの息を入れながら押さえるのを省いて、すぐ息を吐いて押さえないことである。直接息を吐いて押さえると、体(指)は反抗してくるから、指関節が柔軟になるどころか硬くなるのである。息を入れるから体は柔軟になるのである。柔軟になったところで息を吐いてやれば、更に柔軟になるのである。

次に、折れない、真っすぐに伸びる指をつくる稽古法である。二つ紹介したいと思う。

その1.

  1. 軽く息を吐きながら手の平、指を開く。
  2. 息を思い切り入れながら、手の指を十分に伸ばし、張る
  3. 息が十分入ったら、指が伸び、張られたまま、息を吐きながらさらに張り、伸ばす。
その2.
  1. 手の平、指を開く。
  2. 軽く息を吐きながら、他方の手の人差し指と親指で、人差し指の腹と三つ目の関節の背を押さえ、
  3. そのまま息を思いきり入れながら、親指を支点として人差し指を手前いきながら指を反らす。
  4. そのままの態勢で、息を吐きながら、今度は人差し指を支点にして、親指で押すように指を伸ばしていく。
    これを人差し指から、中指、薬指、小指とやっていく。
これらの稽古をやっていくと、指が柔軟になる。そして指の締りがよくなるし、指が開いて折れ曲がりづらくなる。面白いことに、指が締まって、しっかり掴めるようになると、折れない指、曲がらない指になるだけでなく、掴まなくても、例えば、接しているだけでも相手を導くことができるようになってくる。
締まる指をつくっていきたいものである。