【第557回】 体は十字、技も十字で

これまで、体は十字に機能するように出来ているし、十字につかわなければならないと書いてきた。手先や腰は十字になるよう、働くようにできており、十字につかわなければ、力もでないし、技にならない。

この体の縦・横の十字で円ができ、そして螺旋ができるから、相手を己の円に導くことができるのである。
体を十字につかう、そして体を十字に機能するように鍛えていくことは重要なのである。

さて、体を十字につかっていくと、円ができて、その円に相手を取り込むことができるので、確かに技が効くようになってくる。しかし、まだまだ不十分であることを感ずる。例えば、片手取り呼吸法をやると、受けの相手を倒そうと、腕を上げる際に、相手とぶつかって、頑張られてしまうのである。手を十字に返し、腰も十字につかっているのに、ぶつかってしまうのである。

このぶつかりの原因は、持たせた手先の動き・軌跡(因みにここでは「技」とする)が十字になっていないからである。
手先の軌跡が十字になるということは、手先が縦と横の規則正しい動きになっていなければならないということである。
具体的に、片手取り呼吸法の動き・軌跡を分析してみると、

  1. まず、手先を相手に取らせる(これを縦とする)
  2. 取らせた手を、己の腰腹を中心にした円上に進め、相手を導く(横)
  3. ここで取らせた手で導いた相手を倒そうとすると、横の動きになり、法則違反でぶつかってしまうのである。
    従って、ここでは手先を、縦の動きでつかわなければならないのである。
    ここで縦につかうとは、手先を横に動かすのではなく、横と十字の方向である前に手先をつかうのである。一教運動の手づかいである。
    一教運動の形で手先をつかうと、相手が抑えている力が抜けてくっついてくる。
  4. 今度は横に手を動かし、己の腕を相手の首などに接し、
  5. その手を縦の下に落とせばいい。尚、ここでこの手を横に振って相手を倒そうとすると、相手に頑張られたり、逃げられてしまうことになる。
これが十字の技である。勿論、手先や腰などの体の部位は十字につかわなければならないし、息も十字、イクムスビでつかわなければならない。

この、技も十字でつかうということは、体を十字につかうと同じようでもあるが、違いは、支点の置き方によるだろう。つまり、十字を体に置くか、技に置くかという事である。
十字は大事なことであるから、いろいろな視点で稽古をしていくのがいいと考える。

技も十字でということを、片手取り呼吸法で説明したが、この他に、例えば、剣の素振り、正面打ち一教で会得するのもいいだろう。
剣や腕も十字の動き(技)で行われなければならない。
  1. まず、剣・腕を振り上げる(縦)。剣や腕は肩に邪魔されて自然と止まる。
  2. 剣はそのままの位置にとどまるが、肩は横に拡がる。先ほど振り上げた上の方向に対して横に力と気が働く。
  3. 次に、剣・腕が、横に対して直角に上げる。
縦、横、縦の十字の技となっているのである。ただ、振り上げて、切り下す、縦、縦の動き(技)ではない。

この十字の技こそ、自然であり、宇宙の営みを形にした法則であると考える。
因みに、誰でも、何処でも、いつでもやっている「歩行」など、縦と横の十字の技である。体重を地に落とす(縦)、そして直角の前(横)に進んでいるのである。これが縦、縦なら、ぴゅんぴょんと飛び跳ねて進むことになるし、横、横なら水中・空中遊泳だろう。縦横の十字の技のお蔭で楽な歩行ができるわけだ。
技も十字でいかなければならないだろう。