【第550回】 ナンバ歩行

昔から、習い事で難しく大事な事は、最も基本的な事であると云われている。
合気道でも、今までその重要性をそれほど考えていなかったが、最近、その基本の重要性が身に染みるようになってきた。
それは歩の進め方「歩法」「歩行」である。

人間誰でも二本の足があれば、右足、左足と規則正しく交互に地に着けながら歩いている。通常はこれでほとんど問題がないわけで、別に考える必要はない。
しかし、武道としての合気道の稽古をする場合は、歩を進める歩法は非常に大事である。

通常の人の歩法は「常足なみあし歩行」という。「常足歩行」は、二軸歩行(又は三軸歩行)である。
これとの対照が「ナンバ歩行」である。「ナンバ歩行」は一軸歩行である。武道としての合気道の稽古では、一軸歩行でなければならないので、「ナンバ歩行」ということになる。

「ナンバ歩行」は、一軸歩行ということもあって、体の移動を大きくも小さくも、早くも遅くも自在にコントロールできるし、大きな力に耐えることもできる。例えば、重いカバンを手に持って歩くには、この「ナンバ歩行」の方がいいはずである。
また、「ナンバ歩行」は態勢の安定を保ったり、体の動きを調整しやすい。例えば、山登りや階段を上る際は、誰でもこの「ナンバ歩行」になっているはずである。

「ナンバ歩行」は、合気道の原理原則の十字の足づかいである。前足と後ろ足が十字に交差する歩行である。この足先の方向に腹が向き、その足の上に腰腹がのりながら歩を進めるのである。つまり、腰腹の移動によって、自然に歩を進める歩行ということになる。因みに、「常足歩行」は、足を出して、その足に体が付いていく歩行と云えるだろう。

「ナンバ歩行」かどうかは左右の足の形ですぐわかる。「ナンバ歩行」の場合は、前後の足がお互いに十字の形で移動しており、前足は後ろ足から二足ほど出ているだけだが、「常足歩行」の左右の足は平行し、前足は後ろ足から三足以上出ている。

従って、「常足歩行」の方が「ナンバ歩行」よりも、通常での歩は早い。
しかし、「常足歩行」で技をつかっても力は出ないし、素早い動きもできず、武道には適さない歩行と考える。体を壊さないためにも「ナンバ歩行」で稽古をしなければならない。