【第547回】 手先の回転角度

合気道の技は、ほとんど手でかける。手は手先から、手首、肘、肩、そして胸鎖関節まであるが、技を掛けるのは手首から先の手の部分といっていいだろう。喩え、相手が肘や肩を掴んで来ても、この手先を上手く操作しないと技は効かないものである。

従って、この手先の部分を鍛錬しなければならないことになる。
それを鍛錬するためには、その部分を研究し、理合いで鍛えていかなければならない。体を理でつくり上げていくのである。

技を掛ける上で手先の働きは、体の中心である腰腹からの力(呼吸力、エネルギー)を指先まで通し、折れない手(指先から胸鎖関節まで)をつくることと、手先を回転させることによって、相手の力を抜いたり、相手を導いたり、倒したりすることであろう。

手首から先の手先だけでも回転する。
手の平を、親指を上、小指を下に地に垂直にし、手首を動かさずに手先を左右に回転すると、内回転で45度、外回転で45度回転する。
しかし、45度のみの回転では、十分な技にならず相手は倒れてくれないはずである。
そこで技が効くためには、手首から肘までの部位の回転、そして肘から肩までの回転も合わせてつかわなければならないことになる。

その回転角度は、
内周り:手首   45度
    肘    45度
    肩    90度
    合計  180度

外回り:手首   45度
    肘    45度  
    肩     0度
    合計   90度


尚、手首を動かさずに上下する手先の角度は、
上方向  45度
下方向  45度

人の体のつくりと働きはそれほど変わりがないはずだが、この回転・上下角度は、私自身のものを計ったものであるから、人によっては違う角度になるかも知れない。

さて、それではこの回転・上下の角度がどうしたのだというのか、技をつかうのとどんな関係があるのかということになるだろう。
結論から云えば、手先から肩までの部位の回転・上下角度が十分でなければ技は効かないので、これらの部位が十分に回転するように鍛錬しなければならないことになるのである。
しかも、一人で鍛錬するだけではなく、相対稽古で相手にしっかり持たせても、この角度かそれ以上で回転するようにしなければならないのである。
相手にしっかり掴まれると、なかなか思うようにいかないものであるが、初めは意識してでも、各部位が独立して、そしてまた連行して回転するように稽古をしなければならない。

そのためには、息づかいが大事である。つまり、呼吸で手先、手を回転させるのである。手の各部位が連行すれば螺旋となり、折れない手ができる。そしてそれを息に合わせてやれば、手先まで気(気持ち、エネルギー)が通り、折れない、しっかりした手となる。

この手先の回転角度で技をつかっていくのである。例えば、多くの相対稽古で手首を掴んで攻撃してくるわけだが、相手と接している箇所の手首は動かせないから、そこを支点として、手先を内・外に回転させたり、指先を上・下に回転する。特に、隅落しなどは、この手首を動かさずに手先だけを下に回転することがポイントである。初心者は、手全体でこれらの回転がないまま落としてしまうので効かないことになる。
呼吸法でも正面打ち一教でも、すべての技でこの手先の回転をつかわなければ上手くいかないはずである。

勿論、指先に力を集中して、下に回転して、隅落しで相手を投げるためには、折れない、強靭な手と体が必要である。それがなければ手先に力が集まらないし、技につかえない。
要は、手先の回転角度のためにも、手の各部位をそれぞれ鍛え、そしてそれらを一本の手としてつかい、必要な部位の箇所を回転させてつかうのである。初心者は、手を一本として鍛え、つかうときは各部バラバラでつかっているのである。これを称して、有川定輝師範は、「バラバラ事件」と言われていたのである。
次回は、この「手先の回転角度」をもう少し深く考えてみたいと思う。タイトルは、「手先の回転角度の技へ応用」とする。