【第532回】 引く息で体を柔軟に

合気の技をつかうには、体は柔軟な方がいい。枯れ木のような体ではいい技は難しい。しかし、年を取るに従って、何もしなければ体は固まってくるから、体が固まらないようしなければならないし、また、合気の技をつかうのなら、少しでも柔軟にしていかなければならない。

合気道の稽古法は、実に素晴らしく、よく出来ていると常日頃から感心させられている。開祖は勿論のこと、二代目吉祥丸道主の苦心の賜物である。体を柔軟にする重要さ、更に、今回の「引く息で体を柔軟に」の教えなど、われわれはそれを稽古しているわけである。

合気道では、体を柔軟にすることが大事であり、まず、そのための稽古をしなければならないわけだが、その教えと実践は入門と同時に始まっている。
体を柔軟にするために、形稽古で受けを取り、体にたまったカスを取って、体を柔軟にしているのである。

更に体を柔軟にしたければ、「引く息で体を柔軟に」すればいい。入門当時を思い返してみると、我々の先輩や本部道場の内弟子は、理屈など考えずに、無意識のうちに引き息で受け身を取っていたように思える。大先生が技を掛けたり、投げたり、抑える際に、息を吐いてその受けを取るのではなく、息を入れながら受けを取っていたはずである。

合気道では、受けは頑張るなといわれる。その意味は、息を吐いて力んで頑張るなということと、息を引きながら受けを取れという意味であると考える。息を吐くと、体は硬くなり、相手と争うことになるのである。

息を引くとは、息を吸うことであるが、息を胸式呼吸で横に吸うことと考える。受けを取る際、息を引くと、筋肉や関節は外側に引っ張られて伸びることになり、体に遠心力が働くことになる。体が柔軟になるわけである。

引く息によって筋肉や関節がある程度伸びると、伸びきったところから、今度は己の腰腹に向かって力が働くようになる。求心力である。
この求心力と前記の遠心力によって、体は更に柔軟になる。
この段階になると、相手と一体となれる引力が働くようになり、相手と一体化した技がつかえるようになることになる。

これまでは、相対稽古での受けの引く息によって、体を柔軟にすることを書いたが、次に、自主稽古での引く息による、体の柔軟方法を書く。

準備運動などで、首、手、足の筋肉や関節を柔軟にする体操があるが、体や部位を伸ばすために、引く息で息を入れてやることである。つまり、吐きながらやらない事が大事である。
前に述べたように、息を吐くと、体は硬くなるし、息を引きながらやると、体は柔らかくなるからである。

更に、息を引き終わったところで、今度は息を吐いて、力を込めると一段と柔軟になる。

引く息は、自分の体を柔軟にするだけでなく、相手の力と気持ちを吸収してしまい、相手の体と心をも柔軟にしてしまうようである。