【第526回】 手の重さ、手先の重さ

合気道の技は主に手で掛けるので、手のつかい方は大事である。しかし、手は割合自由に動くし、思いのままに動いてくれていると思っているので、手にはあまり気をつかっていないように見える。 だから、受けの相手に掴ませるにしろ、打たせるにしろ、己の手を相手の手から離してしまったり、弾いてしまったりするのである。

技を掛ける手は、相手とくっつき、己の重みが相手に伝わり、そしてその手を通して相手と一体となるようにしなければならないはずである。
手はそのように働くように鍛えていかなければならない。

そしてこのような手ができてくると、それにつれて、相手をくっつける引力ができてくると同時に、己の手や手先に重さを感じるようになってくる。
正面打ち一教や入身投げで、相手の手の上にのせて相手を導く手は、この引力のある重さの手でやることになる。手の接点に己の体重が好きなだけかかるし、くっついて離れなくなるのである。この接点を手の重さでなく、腕力でやれば、相手の手を弾いてしまったり、離してしまうので、技にならないのである。

それでは、手や手先に重さを感じたり、重い手をつくるためにはどうすればいいかということになる。
最も大事な事は、肩を貫くことであるがもう一つある。
それは息のつかい方である。昔から、日本に伝わってる「イクムスビ」(生産び)の息づかいをすることである。イと吐いて、クと吸って、ムと吐くのである。この息づかいで、クと息を吸うとき、手に重みが出てくるのを感じるはずである。
ただ、息を吸って、手に重みが出てくるのを感じるためには、次の要件を満たさなければならないだろう。

このクの息づかいで、手が重くなることが感じられるが、これができるようになると、イと吐いても、ムと吐いても手に重みがあることを感じ、その重みをつかうことができる。

この手の重みは、また、息づかいによって手のもと(胸鎖関節)から手先まで自由に移動させることができる。だから、この手の重みは技につかえることになる。
相手が手に重さをもっているかどうかは、技を掛けられればわかるわけだが、稽古の前の準備運動を見てでもわかる。手を振ったり、回したり、上げたり下げたりするのを見れば直ぐわかるものである。 初心者のほとんどは、手や手先に重さがないが、その主な原因は、肩が貫けていないことと息づかいが間違っていることいえよう。