【第520回】 顎(あご)

合気道でよい技をつかおうとするならば、体の末端と体の中心である腰腹とを結んでつかわなければならない。これまで、手と足は腰腹と結び、腰腹からつかわなければならない、と書いてきた。

体の末端には、手と足の他に頭がある。だから、頭も腰腹と結んでつかわなければならないはずである。頭を腰腹と結ぶためには、顎をつかわなければならないのである。そのためには、顎で腰腹と結ぶのがよい。

一般的に、顎を引けといわれるが、顎を引くことによって腰腹と結び、頭や顔が静止したり、安定させる、ということだろう。逆に、顎が上がると、腰腹とのつながりがなくなり、頭や顔がふらつくことになるわけである。

腰腹、または、腹と結ぶために顎を引くわけだが、ただ引いても、顎は腹と結ばれないだろう。顎を腹と結ぼうとすると、体が内向きになり、猫背気味になってしまうし、逆に胸を開くと、顎が上がってしまうものである。

顎を腹に結ぶためには、やはり息のお世話になるのがよいようだ。息を腹から胸に縦に上げ、そして、その息を胸で横に広げる(胸を開く)と、顎がひとりでに腹に結ばれるはずである。結んだところで、息を腹に落とせばよい。そうすれば顎を腹と結んでつかえるはずである。つまり、顔と体がねじれたり歪んだりせず、一体となってつかえるのである。これを、日頃から練習するのがよいだろう。

技をつかう際には、顔・頭も大事である。入身や転換、体捌きで、体(幹)と顔・頭が少しでもずれれば、よい技にならない。顎と腹の結びが切れていると、顔と体(幹)の向き方向が違ったり、頭がふらついたりして、頭に十分な力が集まらないのである。

手や足と同様、頭にも力が集まらなければならない。頭でかける技もある。例えば、片手取りを頭でくぐってやる四方投げや、かつてはつかまれた髪の毛を頭をつかって返す技もあったのである。

顎は大事である。体をかわしたり、体の転換は顎でやる、といってもよいだろう。