【第481回】 火の息

「合気道の思想と技」の第476回『引く息は火』では、「引く息が大事であるから、息が自由に引けるよう、胸式呼吸で胸が大きく柔軟になるよう稽古をしなければならない」と書いた。

今回はこの続きとして、引く息とはどのようなものか、具体的にはどのような稽古をすればよいか、等を研究してみることにする。

引く息とは、吸う息のことである。合気道の技は、イクムスビの息でやらなければならない。イと吐いて、クと吸い(引き)、ムと吐き、スと離れるのである。このクとスが引く息であり、とりわけクと引く息づかいが、技をつかう際には大事になる。

引く息は横の息で、胸式呼吸で行い、吐く息は縦で腹式呼吸をつかうことはいうまでもない。

前にも書いたように、引く息は火である、と開祖はいわれている。充分に息を引くことができるようになると、その息が火であると感じられるようになる。火とはエネルギーであり、それは己の外の宇宙からのものである。つまり、宇宙のエネルギーであり、それが「気」といわれているのだと思う。

十分に息を引くためには、胸式呼吸で胸を大きく広げ、空気を胸(肺)にたくさん入れなければならない。初めは、意識して少しでも多くの空気が入るように、胸(肺)を鍛えなければならない。

十分に息が引けるようになると、息は火となる。例えば、呼吸法や四方投げなどの技では、この息を引くことによって、くっついて離れなくなり、一体化し、相手を自由に導くことができるようになる。また、二教裏などで相手の関節をきめる際にも、息を吐いたり、しがみついたりするのではなく、息を大きく引くことによって、相手自らが力を抜き、こちらと自ら一体となってくる。ムで息を吐いてきめる前に、技はきまっているわけである。

引ける息が多ければ多いほど、呼吸力や技の効き目がそれだけ大きく変わってくるので、少しでも多くの息ができるよう、呼吸法や技の稽古で胸式呼吸と胸の鍛錬をしていかなければならないだろう。つまり、技を胸式呼吸と腹式呼吸の十字による呼吸でかけるようにしていくのである。これまでの腕力や体力などの力から、息づかいで技をつかうようにするのである。

道場以外での一人稽古でも、引く息の稽古はできる。舟こぎ運動や四股踏み等である。胸式呼吸と腹式呼吸の十字で、火の息を意識してやるのである。ただし、少しずつでもよいから、毎日やらなければ効果は出ない。

火の息がつかえるようになると、技は変わるし、呼吸力もついてくる。呼吸力をつけるためには、火の息を身につけなければならないはずである。

また、火の息がつかえるようになると、胸と体に宇宙エネルギーの「気」が充満するので、それを手に伝えて技をつかえば、手から大きいエネルギーが出ることになる。この火の息からの気を、技をかける相手だけではなく、己自身につかうこともできる。例えば、準備運動での柔軟運動で、手首や指先を締めつけたり、伸ばす際に火の息の気をそこに入れると、ただ無暗にやるのとは大きく違って、痛みはなくなるか激減するし、その箇所に柔軟性が出て、鍛錬運動が気持ちよくなる。

確かに、そこには他のエネルギー、宇宙のエネルギーである「気」がある。手からエネルギーである「気」が出ている証しとして、自分でもその気を感じることができるし、火の息からの気で患部に「手差し」「手かざし」をすると気持ちがよいようである。

キリストや聖人などが手かざしをして病人などを癒したのは、このような火の息からの気を使った手かざしではなかったかと考える。