【第48回】 手先に力を通す

合気道の稽古では指先に力がなければ技が決まらない。相手は崩れないし、押さえても逃げられてしまう。しかし、指先が強ければいいということではない。指先と腹や腰と繋がっていなければならないし、腹や腰からの力が指先に流れるようにならなければならない。合気道の稽古で初心者は、手先と腹や腰と結んでおらず、手だけがバラバラに動き、腹や腰からの力が手先まで伝わっていない。キャッチボールで下手な人がボールを投げるのを見ていると、腰、肩と流れてきた力が指先まで伝わらないで、ボールが浮き上がったり、とんでもない所へ飛んでいってしまう。プロは体から出るすべての力が手先や指先まで流れ、その力がボールをとらえて投げるので、正確で早いボールが投げられるのである。 

手裏剣の演武を何度か見たことはあるが、残念ながらあまり稽古を積まれていないのか、畳の的に刺さるのがやっとという場合が多かった。見ていると、肩が貫(ぬ)けていないし、手先と腹、腰が結んでいないことが原因であるように思えた。元来、手裏剣の稽古は体の力を手先に流すにはいい稽古であろう。剣の振りも体の力を手先、指先まで流さなければならないが、場所さえあれば、手裏剣の方が結果が出るから分かりやすく、稽古もやりやすいだろう。合気道の師範のなかには手裏剣の稽古の重要性に気付いて、手裏剣を教えられていた方もあった。その師範の手裏剣は相当な威力があったと聞いているが、剣や杖も開祖の弟子としてピカイチの使い手であった。恐らく、手裏剣が使える程度に剣も使えるということだろう。武士は手裏剣や小柄を使ったが、剣との連動で使っていたのだろう。

手裏剣の稽古を場所などの関係で、やりたくてもできない人には、発泡スチロールに爪楊枝を投げて刺す稽古を勧める。腰からの力を菱形筋、肩、上腕、小手に通し、手首のスナップを利かせて、指先の感覚を鋭敏にしてタイミングよく投げるのである。スナップは手首だけでなく、肘や肩で投げる鍛錬をするのもいい。この方法だと手軽に、いつでもどこでも出来るし、手先に力が通るようにするために非常に有効である。はじめは刺さるのがやっとであろうが、だんだん深く刺さるようになり、手が重く、手先に力が集まるようになってくる。

手先が腹としっかり結び、体からの力が手先に溜まるようになってくると、相手の接点の対極に力を送り込んで、相手を崩しやすくなる。まずは自分の手先に力を通すことを意識した稽古をすることだろう。