【第478回】 さらなる円

合気道の技は、円の動きのめぐり合わせである。複数の円の動きの組み合わせで、技が生まれるのである。
円の動きは、縦と横の十字からつくられる。これを開祖はといわれている。
例えば、腕の場合も縦の円と横の円の組み合わせである。
縦の円はギンギンギラギラの円であり、縦に対して十字となる横の円は、手首、肘、肩、胸鎖関節を支点とする円、それに腰や足を支点とする腹の円がある、とこれまでは書いてきた。これらの手の縦の円と、胸鎖関節(手首、肘、肩でもいい)を支点とした横の円の円の組み合わせで、技をつかうわけである。

人にもよるが、この程度の円の動きのめぐり合わせができれば、受けの相手の多くを納得させる技がつかえるはずである。だが、時として、体力や腕力のある相手にはまだまだ苦労するだろう。そこで、さらなる円が必要なのである。

以前から書いていることだが、有川師範がいわれていたように、技は諸手取ができる程度にしかできないものだ。だから、諸手取りはしっかり稽古しなければならないと考えているので、自主稽古ではいつも稽古するようにしている。

自主稽古で稽古する相手はほとんど変わらないので、受けを取る方もコツを覚えたり、知恵や力をつけてくるので、だんだん頑張られるようになり、時として、抑えさせた手が上がらなくなってしまうことになる。

この無様な状況を避けるためには、二つの道がある。一つは、相手に力を入れるなといったり、しっかり手を抑えさせないように手を動かしてつかうことである。しかし、この方法は自分の精進にはならないので、この道を行くべきではないだろう。

従って、二つ目の道を行くべきである。それは、その試練に対する挑戦をすることである。例えば、さらなる円の動きをつかうことである。

さらなる円、それは、さらなる腹の円である。簡単にいえば、これまでの十字““から、さらに十字、つまりマンジからの円である。
諸手を取らせた手を、十字の““だけでつかっても相手を導くことができるが、それほど大きい力は出ない。ここから、さらに十字に腹を返すと、さらなる大きな、強力な円ができて、相手を遠心力で回すことになるのである。

さらなる十字の円の動きで、相手を遠心力で回すためには、重心の移動が大事である。また、手足の陰陽(同じ側の手と足が陰陽で動く)、陽の足に体重をかけ、腹を十字に返すこと、また、息も陰陽、十字につかうこと、が重要である。とりわけ引く息は大事となる。

また、腹は重心がかかっている陽の足の時に、十字に返すことができるのであって、両足がそろってしまえば、腹を返すことはできない。それを無理してやると、体を痛めることになる。

先輩が体験されて、聞いた話である。かつてその先輩は、力がみなぎっていた頃の開祖の諸手取の受けを取ったそうである。ところが、先輩は足元からすくい上げられるような驚異的な力を感じて、とっさに自分の足裏を畳に吸盤のように貼りつけた。お陰で頭から落ちずに済んだが、開祖の恐ろしさをしみじみ体験したと話していた。

今、その話と場面を考え合わせてみると、開祖のその驚異的な力の源の一つは、この腹のマンジのさらなる円の動きであった、と考える。

円の動きをこれまでいろいろ書いてきたが、まだまださらなる円があるように思える。まずは、この度の「さらなる円」を身につけて、先へ進みたいと思う。そこには、次のさらなる円が待っているはずである。どんな円があるのか楽しみだ。