【第475回】 僧帽筋

合気道は相対で技をかけ合いながら、技を錬磨し、精進していくものだが、技をかけるには力が要る。しかし、合気道の力は呼吸力という力であり、この力を養成していくのが稽古の主な目標であり、重要なのである。開祖は「合気の稽古はその主なものは、気形の稽古と鍛錬法である」といわれているが、この鍛錬法とは呼吸力の鍛錬と考えてもよいだろう。

合気道は手で技をかけるので、手先にいかに大きい呼吸力(陰陽一体化した力)を集めてつかうか、が重要になる。初心者は手先からの力をつかうので、いわゆる腕力になってしまい、相手をくっつけて導くような力が出ないのである。

さらに大きい力、つまり、体重が力となり、技になるためには、肩を貫いて、腰からの力を手先に伝えるようにしなければならない、とこれまでも書いてきた。

この肩を貫いた力は、腕力とは比較にならないような大きい力であり、相手をくっつけて導くことができる力である呼吸力である。だが、さらに大きい力が出るようにしなければならないであろう。

そのためには、肩の次の体の部位を使って、もっと大きい力を出すようにしなければならない、と考える。それは、力の元となる腰と肩の間にある背中の部分である。この部分を鍛えて、つかえば、さらなる力が出るようである。

この箇所は、医学的にいうと僧帽筋というようである。僧帽筋は上部、中部、下部と分かれているというが、医者でもなければ違いなど自覚もできないだろうから、肋骨の裏側あたりと思えばよいだろう。しかし、説明の都合上、ここを僧帽筋とする。

それでは僧帽筋をどのようにつかうかというと、左右の僧帽筋を背骨の中心に縮めたり(内転)緩めたりして、さらなる手の延長としてつかうのである。

だが、ただ縮めても、手先や腰と結ばず、腰からの力は手先に流れないだろう。だから、息と合わせてつかわなければならない。息を横に胸式呼吸で入れながら、僧帽筋を内転して縮めるのである。胸は張り、肩が貫け、僧帽筋が腰とつながり、腰の力が僧帽筋から肩、腕、手先に伝わって、肩を貫いた力より強力なものとなる。

また、僧帽筋は息によって内転するだけでなく、肩甲骨の力が貫けて、肩甲骨を上げたり、下げたり、回すことも自由にできるようになる。これで、肩甲骨だけでやるより、肩甲骨は自由に大きく動き、より大きい力が出ることになる。

手先と腰腹が結び、腰腹で手先を動かすには、この僧帽筋の開閉でやらなければならない。そうしなければ、手と腰、そして、手足と体がバラバラになってしまうことになる。

つまり、僧帽筋をできるだけ内転することが大事になるわけだが、そこを縮めるためには、横の胸式呼吸が大事であるので、日頃の形稽古でこれを意識してやればよい。特に、呼吸法がよいようである。

相対稽古では難しいとか、不十分というのなら、鍛錬棒を片手で持って、息に合わせて振るのがよいだろう。胸式呼吸で僧帽筋をできるだけ内転するように、そして縮めたり緩めたりして、鍛錬棒を振るのである。つまり、僧帽筋の開閉で振るのである。但し、自主稽古の基本ではあるが、毎日やらなければ効果はないだろう。一度に沢山やるよりも、一回に5振り、10振りでもよいから、毎日やるのである。そうすれば、必ず体がなにかを教えてくれ、導いてくれるはずである。

また、最近は道場であまりやらなくなったが、「舟こぎ運動」がよい。息に合わせて僧帽筋が少しでも内転するように、腕を思い切り引くようにする。西洋式の体操や準備体操などのなかった頃は、この「舟こぎ運動」が準備体操であり、そして鍛錬法であったと思う。

「舟こぎ運動」には、いろいろなやり方があるようである。僧帽筋を柔軟に鍛えることや、気力の養成、手や足腰の鍛錬、あるいは引力の養成に重点を置くやり方もあるだろう。