【第471回】 千手観音

合気道は基本的に手で技をかけて技の錬磨をしていくが、胸や肩や頭など、手以外のところに技をかけることもある。その典型的な稽古法は、胸取り、肩取りであろう。しかし、初心者がよくやるのは、こちらの胸や肩をつかんでいる相手の手を引きはなして、片手取りなどの手で技をかけてしまうことである。これでは片手取りとの違いがなく、肩取りや胸取りを稽古する意味がなくなってしまう。

いつも合気道の稽古法はすばらしいものであると思うが、手以外の肩や胸などをつかませてやる稽古法にも感服する。

つまり、攻撃側の受けに体のどこをつかまれても、それを制し、相手を導くことができるように稽古するのである。人の体は、手先つまり指先から、肩までの手、胸や腹側の体幹の前面、背中や腰の体幹の後面、首や頭、脚があるわけだから、そのどこでもつかまれる可能性があるわけである。

そのような場合には、相手につかませたところが手となって、技をかけなければならない。まずは、相手がつかんでいる箇所、例えば肩とか胸で相手と結んでしまうことである。次に、そこを支点とし、初めから動かすようなことはしないで、自分の体で対照にあるところ、例えば、反対側の肩や胸を動かすのである。これは、手をつかませて技をつかう場合と同じである。

初心者はこのつかまれた場所である支点を動かしてしまうので、技になり難いのである。

もう一つ大事なことは、手の場合と同じように、つかませた箇所と同じ側の足と結んで、息に合わせて陰陽につかうことである。そして、相手につかませている胸や肩を手としてつかい、決めたり抑えたりするのである。胸や肩は手先の力より大きい力が出るので、わざわざ手先に替える必要はない。

肩や胸を肩取り、胸取りで手としてつかえるようになれば、他の体の箇所をつかませて、そこを手のようにつかえるようになるし、また、ならなければならない。

これは、千手観音(写真)になることである。体中が手になっているようにやるとよい。背中をつかまれようと、首をつかまれようと、髪の毛を引っ張られようと、そこを手のように遣うのである。つまり、千手観音になる訳である。