【第454回】 ひかがみ

膝を痛める人が多いこともあって、合気道をやっている人が膝を痛めないように、また、痛めた膝も回復するような方法がないか、と考えていたが、その方法のひとつを見つけたので紹介してみようと思う。それは、「ひかがみ」をうまくつかうことである。

「ひかがみ」とは、ひざの後ろのくぼんでいる箇所である。この「ひかがみ」を曲げず、伸ばしすぎず、常に適度な負荷をかけて、緊張をもたせるのである。

稽古で膝を痛めている人の多くは、この「ひかがみ」が曲がったままだったり、または緊張が不足していたりするようである。これでは、膝の前面の膝頭(ひざがしら)に負担がかかってしまう。

「ひかがみ」をうまくつかうことによって、膝頭(ひざがしら)に負担がかからなくなると、膝を痛めることもなくなるだろう。また、「ひかがみ」をつかうことによって筋肉がつき、膝頭の痛みもなくなっていくはずである。

「ひかがみ」に足からの力が十分伝わると、股関節がうまく使えるようにもなる。また、「ひかがみ」がしっかりしてくると、体も安定してくる。両足で立った時や、技をかける際も、ふらつかずに体が安定する。四股を踏む際も、この「ひかがみ」をつかうようにすると、体が安定するし、股関節の働きがよくなるのである。

しかし、「ひかがみ」は使えばよいということではなく、上手に使わなければならない。突っ張ってしまったり、曲げてしまったりしてはだめである。適度な張りや緊張を持たせなければならない。

では、どこまでが適度で、どこからが過度なのか、ということになるが、それは各自がその場その時に決めることである。己の体に耳を傾ければ、体がそれではやり過ぎだとか、適度である、等といってくれるだろう。

ただし、体の声を聴きながら、「ひかがみ」への負荷を調整するためには、大事な事がある。それは、息に合わせて「ひかがみ」をつかうことである。つまり、息で調整するのである。例えば、技の錬磨の際は、縦と横の十字の息づかいである。手づかいと同じように、生むすびの息づかいで「ひかがみ」も使うのである。

イと縦(腹式呼吸)に吐いて「ひかがみ」を軽く地に落とし、クと横(胸式呼吸)で息を「ひかがみ」から吸い、そして、ムと縦(腹式呼吸)に吐き「ひかがみ」に収めるのである。この息づかいで、「ひかがみ」への力の負担を調整するのである。逆にいえば、息づかいがうまくいかなければ、「ひかがみ」は十分働かず、場合によっては痛めることにもなる。

膝は腿(もも)と脛(すね)とをつないでいて、重い体重がもろにかかる大事な部分である。体は表(体の裏側)をつかうのが法則であるから、膝の表である「ひかがみ」をつかうことである。法則違反で裏の膝頭をつかえば、害になる。「ひかがみ」をうまく使うようにしないといけない。

「ひかがみ」を鍛えるためには、相対稽古だけでは難しい場合、道場以外で鍛えればよい。例えば、歩きながら鍛えるのである。平地でもよいし、坂道でもよい。階段も「ひかがみ」を使うように上がり降りする。昨今の階段の段の幅は前より狭くなっていくようだが、まちがっても爪先で上り下りしないことである。さらに、一日一回は開脚運動などの柔軟体操で「ひかがみ」を伸ばすとよい。

もちろん、歩くのも上るのも下るのも、そして伸ばすのも、息に合わせてやらなければならない。息が「ひかがみ」のクッションになり、ポンプになるのである。