【第451回】 指先、手先に力を

合気道の技の稽古で、受けの相手に技をかける際に、指先・手先に力がなかったり、弱かったりすると、技は効かないものである。

合気道では、技をかければ相手は受けを取ることになっているので、技が効く効かないにかかわらず、相手は倒れてくれる。だから、指先の力の大事さをあまり意識しないで稽古しているようにも思える。

形(かた)で相手が倒れると思って稽古している間は、指先の力を意識することはないだろう。だが、その形を通して技を錬磨するようになってくると、指先の力の重要性、つまり、指先の力が弱ければ技は効かないことに、気がつくようになるはずである。

指先の力が弱ければ効かない典型的な形は、二教裏、四教、四方投げ、小手返し等であるが、一教、二教の表、三教等も同じである。

指先の力が強ければ強いほど技は効くのであるから、指先の力を強くしなければならないことになる。

しかし、まず指先の力を強くする、指先の力が強くなる、とはどういう事かを整理しなければならない。指先自体にも力はあるし、鍛錬すれば多少は力がつくが、ここでいうのは指先それ自体の力ではない。

指先が強いということは、体の中心からの力が指先に集まり、そしてその集まった力を有効につかえることである、と考える。

指先を強くするためには、まず、体の中心である腰から、体の表(背中側、腕の肘側)を通って、手先、指先に力を伝えなければならない。手先、指先に腰の力が伝わると、手先と腰が結ばれるので、手先、指先は「腰」となり、強力な力が出るのである。

二教裏などは、腰の力でやれば効くのであるが、そうはうまくいかない。それは、まだやるべきことがあるからである。その一つは、指先、手先をじゅうぶんに締めなければならないことである。この締めが甘ければ、相手に逃げられてしまったり、悪さをされて、技は効かないことになる。二教などはその典型である。

指先、手先をじゅうぶんに締めるためには、息を十字につかわなければならない。横の息(胸式呼吸)で締め、縦の息(腹式呼吸)で決めるようにするのである。

横の息で己の指先、手先を締めるのだが、その指先、手先が固ければ、充分にはしまらない。逆にいうと、手先、指先が柔軟であればあるほど、締りがよくなるのである。本部道場で教えておられた有川定輝師範の指先の力は驚異的な強さであったが、指先は非常に柔らかであったのを覚えている。

手先、指先を柔軟にするには、己で柔軟になるように鍛錬しなければならない。願望だけでは、体はできていかない。少しずつでも毎日、指先、手先のカスが取れるように、また可動性が大きくなるように、そして柔軟性がつくように、鍛錬するのである。これも、息に合わせてやらなければならない。

不思議なことに、指先、手先が締まってくると、二教などは指先をそれほど締めなくとも効くようになる。初心者がこれをまねてやっても、うまくはできないので、やはり指先、手先をじゅうぶん締める稽古をしなければならないことになる。

要は、やるべきことを順を追って、ひとつずつやっていかなければならない、ということである。