【第442回】 背中の開閉

技をかけるには、腰からの力を手先に集めてつかう。この力の流れが肩などで止まってしまわないよう、また肩甲骨や肩甲帯(肩と胸と肩甲骨周辺)のカスを取って可動範囲を拡大するように鍛錬しなければならない、とこれまでに書いた。

肩甲骨や肩甲帯が柔軟になると、それまで腕の力で技をかけていた時と違い、量と質の違う力が出る。より大きい力、そして、相手をくっつけてしまう引力の力である。

だが、肩甲骨で手先をつかうより、さらに大きい力を出せる部位がある。それは肩甲骨よりも腰に近い背中である。背中を開閉と上下に円く遣って、腰からの力を手先に伝え、手をつかうのである。

背中をつかうためには、まず肩甲骨を柔軟にすることである。肩甲骨が固まっていると、背中も固まって、背中の開閉上下運動ができなくなる。また、背中が柔軟に動くためには、背中の前側にあり、表裏一体となっている胸が柔軟に動くようにすることも大事である。

だが、背中を開閉・上下するためには、支点が要る。背中で開閉するのは、腕の末端である胸鎖関節であり、支点は胸鎖関節の裏にある後ろ襟首となる。ここを支点に、背中が開いたり閉じたりするのである。背中を上下させるのは、それほど難しくはない。肩が上下すればよいのである。問題は、可動範囲ということになる。

背中を開閉・上下するのだが、体の右側と左側は独立して動くようにしなければならない。一般的には背中は左右が一つになって動くが、時として左と右が別々に動かなければならないことがある。例えば、二教裏手首返しである。

従って、体の部位の鍛錬の法則であり使用法則である、部位は個別に鍛え、使用するときは統合して使う、ということになる訳である。もちろん、個別で遣うこともできなければならない。

とはいえ、むやみに背中を開閉しても、大した動きにはならないし、力も出ない。気持ちと息で、背中の開閉を導かなければならない。息で背中の菱形筋などの筋肉を柔軟にし、腰からの力(気)を背中に集め、背中で胸鎖関節、肩甲骨、腕、そして手先を動かすのである。これで、腕の力、肩甲骨の力よりさらに大きい力が出ることになる。

背中によりよく働いてもらうためには、背中の開閉の可動範囲を広げていかなければならない。一番よいのは、技の錬磨の相対稽古で、背中の開閉の鍛錬をしていくことである。例えば、呼吸法や四方投げは、このための稽古に最もよいであろう。

柔軟にするためには、一方的な力、求心力だけでなく、遠心力も養成しなければならない。それには、呼吸法や四方投げがよいだろう。

さらに、自主稽古で背中を鍛えたいなら、舟こぎ運動がよい。背中が開いたり閉じたりするのを意識してやるのである。また、鍛錬棒を背中で振るのもよい。これは、遠心力で振るのである。

背中は、鍛錬していなければ、どんどん固まってしまう。だから、意識して鍛錬することが必要である。稽古などには縁がなさそうな高齢者の方々を町で見かけるが、背中が固まってしまっている人が多いようだ。固まった背中では、技は効かないだろう。

背中が柔軟になるよう、開閉の可動範囲が広がるように、鍛えることが大事である。