【第43回】 合気の筋肉をつくる

合気道には力がいらないといわれるが、それは名人の域に達した開祖などが言うことであって、一般人は力が必要であろう。力のないものが力を抜くことなどできない。特に初心者は技を上手く使えないわけだから、その分一層力を使わなければ上級者と稽古ができないだろう。

合気道の稽古はまず、合気の体をつくることであり、筋肉をつくることである。合気道の筋肉は、日常生活やスポーツで使うものと違う筋肉を使うので、基本的には合気道の技の稽古を通して筋肉をつけていかなければならない。

しかし、これはよほど注意してやらないと、合気道の筋肉がつかないだけでなく、かえってそれを邪魔するような筋肉をつけてしまいかねない。何故ならば、人はよほど注意しないと、日常のやり方や考え方を道場の中にまで持ち込んでしまうからである。稽古で相手に負けまい、やられまいと頑張ったり、相手を倒す、あるいは決めようとしがちなので、合気に必要な体のための筋肉を養成することを忘れてしまうのである。

典型的な例として、二教裏の技がある。相手の手首を決めればいいといわんばかり力んだり、のしかかってくる。これでは合気の筋肉は付かない。合気の筋肉を付けるためには、まず自分の両手で相手の小手をしぼることである。この稽古によって自分の手首が締まる筋肉を養成し、脇をしめて、手と腹を結ぶ筋肉が出来、そして腹がしまってくる。はじめは相手の小手をなかなか上手くしぼりきれなくて、二教の技を決めることはできないだろう。しかし、一生懸命やってもできなければ、それでいいのである。正しい筋肉を付ける稽古を続けていれば、その内にいつかかならずできるようになるはずである。先につながらないやり方で崩しても意味がない。

合気道で使う大事な筋肉は、体の表(背面)の筋肉であり、腸腰筋のような深層筋である。日常使うのは主に体の裏(前面)の筋肉であり、表層筋であるので、よほど注意して稽古しないと日常で使っている筋肉を使ってしまって、合気道の筋肉は出来にくい。二教の裏が上手くいかない人はたいてい体の裏でやっている。その場かぎりの稽古をするのではなく、その場は上手くいかなくとも自分を信じて、焦らずに、恐れず、合気道の筋肉ができる体をつくるように、地道に理に適った稽古をしていくべきであろう。