【第426回】 技は十字に

技をかける際には、自分の手や腕が折れ曲がらないようにつかわなければならない。折れ曲がってしまえば、腰腹からの力が手先に伝わらないので、力が出ず、技は効かないことになる。

しかしながら、日常生活では手や腕が自由自在に折れ曲がるので、快適な生活ができるわけである。そのため、それに慣れてしまっているのだが、それで技をかけると、うまくいかないのである。

手や腕が折れ曲がらないようにするには、まず、手や腕だけでなく、隣同士の関節と基本的には直角であり、十字に折れ曲がるようにできていることを認識することである。本来折れ曲がる関節を折れ曲がらないようにするためには、各関節同士を十字につかって、ロックしなければならない。十字につかえば、それは螺旋になり、折れ曲がりにくくなるのである。

これは技をかける側の事であるが、受けの相手の事も考えなければならない。人間の関節、とりわけ手・腕の関節は、自由に動けるようにできている。合気道の技は多くの場合、受けの手・腕を通して技をかけるので、自由に動く手に力を加えてただ攻めたのでは、技にならない。

最も一般的なのは、肩から手先までの手・腕を一本にして、技をかけていることである。手・腕を一本のままつかって技をかけても、力を加えた相手の手は肩を中心に自由に動くので、加えた力が逃げてしまい、相手は崩されることもなく安定したままで、技は効かないことになる。その代表的な技が、正面打一教であろう。四方投げや小手返しも同じである。

技をかける場合の鉄則は、手・腕を折れ曲げないことである。これを、受けの相手に応用するのである。つまり、受けの相手の関節が折れ曲がるようにすれば、相手は力が出ず、倒れざるを得なくなるはずである。

正面打一教の場合には、一方の手で相手の肘をおさえ、そこを支点として、他方の手で肘から先の腕を、上腕と十字に折れ曲げてしまうのである。腕が折れ曲がると、受けの相手の肩から先の手・腕の自由度がなくなり、手と自分の体が固定されて、手は動けなくなる。そこに力を加えると、加えた力は逃げることなく、相手の体の中心に及ぶようになる。(写真)

四方投げでも、相手の手を一本でつかうのではなく、肘のところや手首のところで十字につかうと、その腕の自由度はなくなり、相手を制することができて、技がかかりやすい。相手を制してなければ、相手にいたずらされたり、返されたりしてしまうことになる。

小手返しも同じである。手首、肘のところが十字になっていなければ、技は効かないだろう。小手返しがうまくいかない理由のひとつは、十字にしていないことにある。

最も典型的な技(正確には形)は、二教裏である。相手の手・腕が一本のままでは、決して技が効かない。手首と肘を十字にして、はじめて効くのである。

受けの相手の手首や肘を十字にすると、例えば、正面打一教の手のように、上下に動いていたものが上下に動かなくなるし、四方投げの手のように左右に動いていた手は、左右に動かなくなる。完全に各関節を十字にしてしまえば、相手の力は脱力し、こちらの体の一部になったようにくっついてしまう。(写真)

技をかける場合の手は、十字で折れない手にして遣わなければならないし、受けの相手の手も十字になるように、技をかけなければならない、ということになる。