【第420回】 息遣いと体の柔軟性

人間、25歳を過ぎるあたりから、体が硬くなりはじめるようである。体が硬くなると、体調が狂いがちになったり、機能が衰えて動きも悪くなったりするから、合気道の技をかけても効き目が弱くなることもあるだろう。

合気道などをやってなければ、自分の体が硬くなっていることにも気がつきにくいだろう。だが、合気道をやっていると、それに気づけるだけでなく、体の硬化に対応することもできるので、有難いというものだ。

合気道では、技をつかうためにはもちろんのこと、怪我をしないためにも、体を柔らかく、そして強靭にしなければならない。

そのために、技の稽古に入る前には、柔軟体操をするのが一般的になった。なった、というのは、開祖がおられた頃は、どの師範の時間でも柔軟体操や準備運動などやってなかったからである。かつての稽古では、基本準備運動と呼ばれる転換法、呼吸法や舟漕ぎ運動から始まったのである。

そのせいか、今の柔軟体操は体慣らし、心慣らしほどのつもりで軽く行われているようである。せっかく体を柔軟にする機会を、充分に活用しなくては時間と労力が無駄になるだろう。始めに戻るが、これでは体を柔軟にするのは難しいように思える。

柔軟体操は体の各関節と、そこに働く筋肉や筋を伸ばす運動である。やるからには、形だけやっているのでは効果が薄い。自分の極限の紙一重上のところまで、充分にやることである。

もうひとつ大事な点は、息に合わせてやることである。息に合わせるのは、気持ちと体である。そして、息は生ムスビで、吐いて、吸って、吐く、で使わなければならない。

柔軟運動の開脚で、左・右・前と倒す場合の息遣いを見てみると、自分のやり方が何度か変わってきているのが分かる。

入門当時は、息を吐きながら体を倒していた。それが、体を柔らかくするのに正しく、一番すぐれた方法だと思っていた。それまでは、息に合わせてやるなど考えてもいなかったのだから、大発見をしたと有頂天だった。

それは長い間続いたのだが、最近になって、息を吸いながらの方が体が柔らかくなることに気がつき、今度はそれに専念した。

しかし、それもまた変わってきたのである。最近は、生ムスビの呼吸でやるようになってきた。つまり、まず軽く吐いて、次に吸って吸って吸い切り、最後に吐き切るのである。これは、これまでの内で一番、体を伸ばす事ができるやり方であると思う。

しかし、この最後に吐くのが、難しいのである。その前の吸うは容易にできるし、伸ばそうとする体の部位も伸びるが、吸って入れた息をうまく吐かないと、息を詰めて、逆に体が固くなってしまう。

吐く息は、丸くなければならない。入れた息を、天と地を貫いてしまうのである。息が腹や胸など体に詰まってしまうと、柔らかくすることはできないので、体のどこかが突っ張ってしまうことになる。

この柔軟体操は、前回の「第419回 はく息はまるく」にある、技をかけるときの息遣いと同じ、ということである。技をうまくかけるためには、この息使いはMUSTである。技で使うことが難しければ、柔軟体操で稽古するのがよい。

要は、柔軟体操も技の稽古も、息遣いは同じなのである。従って、柔軟体操だからといって気を抜いたり、力を抜いては駄目ということになる。柔軟体操を見れば、その人の技の技量は分かってしまうものだ。