【第419回】 はく息はまるく

息の遣い方は、なかなか難しいものである。初心者は息の遣い方など気にもとめないでやっているだろうが、形を覚える形稽古の段階では、息をどう遣おうとあまり関係ないから、意識することもないだろう。

だが、形稽古で基本技の形が身についてくると、今度は相手を倒したくなるものだ。そして、倒そうとしても相手はなかなか倒れてくれないということがわかってくる。

形をいくら力を込めてやっても、相手にがんばられると、相手を倒す事はできない。相手を倒すには何かしなければならない、ということも分かってくる。

まずは、腕力をつけ、腕力で技をかければよいと考えるだろう。力があればあるほど、相手が倒れる率が上がる事は確かである。だが、それでは足りないことに気づいて、何かほかにあるのではないか、と思うようになるだろう。

その何かの一つに、息遣いがある。例えば、技は「生ムスビ」の息でかけなければならない。「生ムスビ」については以前も書いたが、もう一つ大事な息遣いがある。

以前の経験であるが、息遣いを間違ったために技が効かず、相手にがんばられたことがあった。今、周りを見ると、同じような経験をしている同人たちをよく見かける。

入身投げや呼吸法では、「生ムスビ」で吐いて、吸って、そして吐きながら、自分の手の下にある相手を落として倒す。だが、相手にがんばられて倒れない場合がある。ひどい場合には、自分の手が相手の手や肩にかかっているところで取られて、背負い投げなどで返されてしまったりする。

これは、息の吐き方に問題がある。吐く時は、息がつまりがちになる。息がつまると、力んで体がかたくなる。かたくなった体は、相手の体と心を弾いてしまい、そして、自分の体をも相手から弾いてしまうのである。

吐く息は、まるく吐かなければならない。まるく吐くとはどういうことかというと、息を体のどこにも詰まらせず、天と地を貫いて吐くことであろうと思う。

このように息をまるく使うと、相手は、手を落として倒さずとも、自から力が抜けて倒れていくようになる。

開祖はこれを、「はく息は○である。ひく息は□である。腹中に□を収め、自己の呼吸によって○を□の上に収めるのです」といわれているのだと考える。

吐く息をまるく使えないと、相手とぶつかってしまう。すると、腕力に頼るしかなくなって、魄の稽古から脱出できないことになる。

しかし、その前に、息の重要性に気付き、息を理に合わせて使うようにしなければならない。理の呼吸である。

息を意識して使おうとするようになると、相当上達したと考えてよいだろう。