【第398回】 足の親指

合気道で練磨している技は、宇宙の条理に則った、宇宙の法則性を有するものであるが、その技を使う人の体も、その宇宙の法則に則ってできているようである。宇宙の万有万物には、無駄がなく、すべてある方向、つまり宇宙楽園建設に向かって、分身、分業で生成化育をしているわけだが、人の体にも何一つ無駄なものはないし、各部位の分身、分業で、生成化育をしているといえよう。

宇宙法則に則ってできている体をつかい、宇宙の条理に則った技をつかうためには、その体も宇宙の条理に合致するように使わなければならないだろう。

体が宇宙の条理に則って使われたかどうかは、自分で判断するしかない。相手にかけた技がどのように効いているか、自分と相手がどれぐらいまで納得するか、などで判断できるはずである。

まちがっていれば、技は効かないだけでなく、当人も痛みを覚えたり、体を壊すことになる。その場合、体の使い方が宇宙の条理に従ってない、という警告として受け取るべきであろう。

例えば合気道では、膝を痛める人が多いようである。原因は人それぞれに違うだろうが、そのほとんどは、自分の体重を足の小指側にかけて、技をかけたり、歩行していることにあるように思われる。右足、左足、と重心を移動する際に、足の小指側に体重をかけたり、それで技をかけると、膝に負担がかかるものである。

テレビで見た光景でも、尾瀬地方の歩荷(ぼっか)(荷運び人)のベテランが、膝が痛くなったという初心者の歩荷に対して、足の小指側に体重・荷重を落とすと膝が痛くなるから、足の親指側に落とすように、との助言を与えていた。実際に、足の外側(小指側)に重心を落として立ったり、歩いたりすると、体重や力の抗力がもろに膝にくることが分るはずだ。

合気道での歩法は、ナンバで撞木が基本であり、踵から着地して、踵、小指球、拇指球の足裏三点を「あおる」ものである。重心が拇指球にきたら、その力をさらに親指に落とすのである。そうすると、体が安定すると同時に、地に重力が落ち、そして、その抗力が上がってくる。これで、膝への負担はなくなる。

また、技をかける際には、親指に力を集中しないと、大きい力は出ないようである。

合気道開祖の植芝盛平翁の高弟であった養神館の塩田剛三氏は、「集中力を生み出すコツは、足の親指にあります。これを鍛えてグッと床にかませます。すると腰にビーンと力が入って強くなる」((「合気道修行」竹内書店新社)といわれている。ビデオなどを拝見すると、技を使う際には、実際に足の親指に力を集中しているのがわかる。

よい技をつかうためにも、また、膝を壊さないためにも、足の親指に力を入れるように稽古しなければならないだろう。そのためには、ふだんから外を歩く場合にも、足の外側(小指側)で歩かず、足の親指に力が集まるように歩かなければならない。