【第386回】 骨から筋肉をはがす

合気道に入門した頃、先輩達はよく我々新人の腕を両手で握って、まだまだだな、とか、だいぶ太くなったな、などといわれていた。当時はよく分らなかったが、稽古している内に腕が太くなったり、強靱になっていくものなので、腕を握って見ているのだろうと思っていた。

しかし、最近であるが、当時の先輩達が腕を握っていたのは、意識的または無意識的に、骨と筋肉がどれだけはがれてきたか、ということも見ていたのではないかと思う。

入門当時は、諸手取り呼吸法の稽古で腕(前腕)をつかまれても、腕の骨と筋肉が張りついているので、弾力も柔軟性もなくてまるで枯れ木である。それに引きかえ、先輩や師範の腕は膨らみがあり、柔軟性があって、吸盤のようにくっついてくるのである。

ある先輩は、腕をつかんでみると、どれくらい力があるのか、どれくらい体ができているかが分る、といっていた。確かに、それは当たっているようだ。故有川師範は、諸手取りの呼吸法ができる程度にしか、技はつかえないといわれていたが、この腕の出来具合の重要性も含まれていたのだろう。

諸手取り呼吸法は大事である、といわれるだけあって、十字、左右陰陽、息づかい、螺旋など等、いろいろなことを学ぶことができる。その内の一つに、骨から筋肉をはがして腕をつかうやり方がある。

骨から筋肉をはがすとは、まずは、硬くなった筋肉をほぐすことである。これは形稽古をやって、筋肉を引っ張ったり、伸ばしていれば、だんだんできるようになってくるものであり、ある程度までははがすことができる。

しかし、ただ稽古をやっているだけでは、本格的なはがしはできない。本格的に骨から筋肉をはがすためには、その意味、必要性、そのための方法を知らなければならないだろう。

まず、「骨から筋肉をはがす」とは、骨と筋肉が独立して働くようにすることであろう。さらにいえば、骨と表層筋と深層筋が独立して働くようにすることであると考える。

では、なぜ骨から筋肉をはがすことが必要であるか、諸手取り呼吸法で簡単に説明してみよう。諸手で相手がおさえているのは、腕の表層筋である。骨から筋肉がはがれていれば、骨は自由に動くだろう。だが、はがれていなければ、骨と筋肉はへばりついたままで、腕は動かない。かつて自分もそうであったが、初心者が諸手で握られて動けなくなるのは、このためである。

諸手取り呼吸法の場合も、接点である腕の表層筋は動かさず、骨を動かさなければならない。だが、骨が自分で動くわけがないので、表層筋と骨の間にある深層筋に働いてもらうことになる。その結果、骨と深層筋と表層筋がバラバラに動くのである。これができるようになれば、相手の手や体をくっつけてしまえるようにもなる。

骨から筋肉をはがしてつかうのは、もちろん腕だけではない。足も背中も腰も胴も、体全部ということになる。

例えば、骨から筋肉をはがさないまま、長年稽古を続けていくと、肩を痛めるし、腰も痛めることになる。また、背中の骨から、筋肉をはがしてつかわなければ、大きい力は出せないだろう。

それでは、骨から筋肉をはがすためにはどうすればいいのか、ということになるので、私のやり方を書いてみる。

まず大事なことは、合気道の原則の一つの「中心から動かす・つかう」である。つまり、動かしやすい表面の筋肉からではなく、最初に骨を動かすのである。しかし、骨は一人では動かないので、その骨に近い深層筋で動かすことになる。

やってみれば解るが、深層筋や骨は、そう簡単には動かせないものだ。骨を動かせるためには、支点がなければならないし、さらに支点がしっかりしていなければならない。その支点とは、相手や物に触れる表層筋である。

相手が抑え、接している表層筋の個所を支点にして、深層筋、そして骨を動かすのである。これが、骨から筋肉をはがす稽古にもなるわけである。