【第383回】 受け身で体をつくる

合気道に入門して、まず目標にすることは、受け身であろう。先輩に投げられて、受け身が取れるようになることである。前受け身、後ろ受け身、飛び受け身が、自由自在に取れることである。自分もそうであったが、初心者や子供たちは体ができてないこともあり、受け身を取って覚えるしか、上達のしようがないと思う。

開祖が居られる頃の本部道場の稽古は、今のように初心者と上級者の稽古時間や場所がわかれていなかった。入門した日は、道場の隅で受け身を稽古したが、後はみんなと同じように稽古するのである。技の動きなどわかるはずがないので、それは仕方ないとして、受けだけは相手の先輩に迷惑をかけたくないと思い、受け身をしっかり取るように心がけたものだ。

その頃は、道場へ毎日通い、稽古時間が終わった後で、先輩に投げてもらって、受け身の練習をした。呼吸投げでは前受け身、四方投げや小手返しでは飛び受け身と、投げてくれる先輩が止めるまで取り続けた。こちらからお願いしたのだから、こちらから止めたのでは失礼にあたると思い、苦しくても続けたものだ。

少しずつ慣れてくると、投げてくれる先輩が疲れるのか、こちらの体ができてきたのか分らないが、2〜3分程度しか投げてくれなくなった。そこで、二人目、三人目と、先輩に投げてもらった。この頃には肺や心臓も丈夫になって、以前のようにハーハーゼーゼーと息切れすることもなくなった。

すると、次第にそれまで面白がって投げてくれていた先輩が、あまり喜んで投げてくれなくなってきた。そこで、同輩の仲間2〜3人と一緒に、お互いに投げ合いをした。それから一人が30〜50回、受け身を続けてやった。他のものは数を数えたり、声援を送ったりして、メニューをこなすように協力した。

一人受け身もずいぶんやったものだが、これは投げて貰うよりも厳しいものであった。投げてもらった方が、ずっと楽なのである。だが、この段階になると、体がだいぶ柔軟になり、体に重みも多少ついてくるようになった。

受け身が取れるようになると、今度は先輩が遠慮したり、気を使ったりすることなく、まともに技をかけて、技を決め、投げ飛ばすようになってきた。腰投げなどでは多少怖いという気持ちもあったが、当方を壊そうという思いでやっている訳ではないのだから、相手を信用し、力まず、頑張らず、相手の動きにできるだけついて行くように、受け身を取るように心がけた。

この段階の受けは、遠心力の養成であるといってよいだろう。力むことなく、相手に任せて受けを取っていると、遠心力が働いて、自分の肩が貫け、自分の手と腰腹が結ばれるようになる。力んでしまうと、求心力が働いてしまうので、遠心力を身につけるためには、受け身は大事であるといえよう。

また、相手の動きに従って、力むことなく受け身を取っていけば、先輩の技を盗むこともできるのである。こちらががんばってしまうと、できないことである。

上級者の先輩の受け身をある程度取れるようになると、合気道ができたように思ってしまいがちである。だが、残念ながら、それはまだ半分しかできていないのである。受け身ができても、技をうまくかけられるものではない。

受け身がある程度できてくると、次は技を効かせるようにしたい、と思うようになるだろう。
だが、今回のテーマは受け身であるから、話を戻すと、このような段階になっても、受け身は大事に取っていかなければならない。もしふだんの受け身で物足りなければ、再度、一人受け身の稽古をするとよい。

畳一帖を飛ぶような大きい受け身、あるいは畳一帖の中で取るような小さな受け身を、10回ほど連続して取るのである。特に、畳一帖の中で取る場合は、反転する時に腰を切らなければならないので、腰を柔軟にし、腰を鍛錬するのによい。この腰の切れが、後日、技を効かせるのに大いに役立つはずである。畳一帖で10回の受け身が取れれば、板の上やコンクリートの上でも、受けが取れるであろう。

受け身で体をつくるためにも、受け身ということをよく考えてみなければならい。まず、受け身とは、ただ受けを取って転がればよいというものではない。受け身は本来なら攻撃のための動作である、と意識することが大事で、そういうつもりで取らなければならない。はじめの一回だけでなく、スキがあればいつでも相手を攻撃できなければならないものである。投げられた時には、受け身を取りつつ身を守り、すかさず攻撃の心構えと態勢を取るようにしなければならないのである。

次に、技をかけてくる相手は、敵ではなく、自分のスキや弱いところ教えてくれる支援者であり、自分の身体の鍛錬を助けてくれる人だ、と考えることである。

例えば、一教、二教、三教などの受け身では、手首、肘、肩などを伸ばしてくれることになる。自分一人で伸ばすのは容易ではないが、捕りの相手が助けてくれるのである。相手に感謝、である。従って、技をかける捕りの方は、相手が少しでも部位が伸びるよう、壊さないよう、力を加えていくようにしなければならない。相手は敵ではないのだから、やられまいと頑張っては、体はできないものだ。

さらに、受け身で体をつくるため、そして合気の体をつくるために、受けでも捕りと同様に、法則に則った動きで受けを取らなければならない。例えば、足は左右交互に「陰陽」で使わなければならないし、息も「生産び」でなければならない。

稽古年数をどれだけ重ねていても、受け身でも体をつくっていかなければならないし、受け身から学ぶことはいくらでもあるものである。いつまでも受け身も大事にして、稽古を続けていきたいものである。