【第382回】 相手と結ぶ手をつくる

なにごとも、「初め」が肝心である。技を練磨して精進する合気道の稽古では、相手と接した時が、「初め」である。何が肝心かというと、結びである。相手と接した時に結ばないと、力がでないし、技がかからず、そして、稽古が先に進まないだろう。

開祖も「すべて結びでやる。それでないと本当の強さは出てきません。それでないと皆さんの稽古が無駄になってしまうのです」(『合気真髄』)といわれている。

合気道は武道なので、何でもあり、である。だから、どこをつかまれようが、打たれようが、つかまれた所や、打たれた所で、相手と結んでしまわなければならない。たいていは肩や胸や腰や背中などであるが、大体の場合は、手で攻撃し、手で技をかけてくる。

そこで、今回は、相手と結ぶ手をどうすればつくれるのか、研究してみたいと思う。

相手と結ぶ手になるためには、少なくとも

  1. 自分の手先が腰腹と結び、繋がっていなければならない
  2. 肩が貫けていなければならない
ということが必要であろう。

開祖がおられた頃の稽古では、まだ柔術的な雰囲気があり、誰もが相手を倒そうと激しい稽古をしていた。開祖の指導の下で、捕りも受けも精一杯、力一杯投げたり受けを取ったりしていたので、稽古を続けるうちに自然と体のカスが取れて、相手と結ぶ手ができていったのではないだろうか。

しかし、開祖が亡くなられて半世紀近くが経ち、世間も人も当時とは大分変って、昔のような稽古はなかなか難しくなった。もちろん昔のような稽古をやろうと思えばできないことはないので、できる人は是非やって欲しいと思うが、できなければ、理合の稽古をしていくしかないだろう。

相手と結ぶ手になるための2つの条件を、@〜Aとして書いた。その稽古の仕方は何度も書いているので、それを見てもらうことにして、ここでは体がある程度できたという前提にする。

相手と結ぶ手をつくる稽古は、通常の合気道の稽古の中にあるし、そもそも合気道の技は、それができるようにできているのである。

だが、相手と結ぶ手になるために、わかりやすくやりやすいものと、そうでないものがある。ここでは、その内のわかりやすくやりやすいものを挙げてみる。
  1. まず、呼吸法である。片手取り呼吸法がもっともわかりやすいが、諸手取り呼吸法の方がやりやすい場合もある。相手が取りにきた手を、こちらの手でくっつけてしまうのである。取らせた手を押したり引いたりしないで、いわゆる天之浮橋に立つわけである。自分の腕の力を引力に任せて、肩を貫くと、相手がつかんでいる手にこちらの全体重が伝わる。これで、相手と手を接して結んだことになり、相手と一体化して、自分の思うように動けることになる。
    諸手取り呼吸法の場合は、相手は二本の手でつかんでくるので、力は倍になる分、大変である。だが、相手も両手を使うので、動きが制限されるし、手の接する面積は倍になるから、結びやすく、結んだ際の相手の反応が分りやすいという利点もある。
    呼吸法で相手と結ぶ手ができてくれば、片手取り四方投げでも、小手返しでも、同じように結んでできるようになるだろう。
  2. 次に横面打ちである。打ってくる手と結ぶのは、つかんでくる手と結ぶよりも難しい。しかし、それでも相手と接した時に結ばなければならない。結ばずに打ち返したり、弾いたりしたのでは、柔術などのような違うものになってしまう。
    横面打ちで打ってくる相手の手に、こちらの手が結ぶためには、腰と繋がった手を十字に使わなければならない。初めに息を吐きながら、相手の喉に向けて、手を立てて出し(仮当て)、そこから息を入れながら、相手の腕に沿って、自分の手の平の面を下に向けながら90度まで返し、そして相手の手首辺りでその手を縦に反すと、相手の手と結ぶから、ここから技をかけることができるようになる。
    横面打ちの稽古は、相手と結ぶ手の感覚を得やすく、そして相手と結ぶ手を作るのにふさわしいものであると考える。
    横面打ちで結びの手ができれば、正面打ちに挑戦できるようになるだろう。
  3. もうひとつ、天地投げを推薦したい。天地投げは一見容易に思えるが、大事な秘訣が多い基本技(正確には、技の形)である。これも最初が肝心で、最初がうまくできなければ、うまくいかない技の典型であろう。
    天地投げで攻撃してくる相手と接する最初は、(だいたいの場合に)中段に出すこちらの手を、相手も中段でつかむ手である。その手を押したり引いたりせずに、天之浮橋に立って結ぶのである。
    相手の手とこちらの手が結ばれると、相手が自由に動いたり、悪さをすることができなくなる。この状態になったら、その結んだ手は動かさずに反対側の手を相手の手と結びながら、地に落とすと、今度は最初に結んだ反対側にある手が天に上がってくる。
    天地投げは、相手に両手を取らせる技なので、相手と結ぶ手を右左陰陽に変えて使わなければならないから、そのよい稽古にもなる。
    注意しないと、初めの手を結ぶことなく、持たれた手を陽・陽に使ってしまいがちである。だが、初めに掴ませた手は、相手がよほど力が弱くないかぎり、物理的に上がるものではない。
    天地投げも、初めに相手の手と結ばないとできない典型的な技であろう。
    この天地投げで、相手と結ぶ手ができれば、両手取りや後ろ両手取りなどでもうまくできるようになる。また、片手取りも、両手取りと同じように、左右陰陽で使えるようになるだろう。