【第377回】 第二、第三の手

合気道の相対稽古で相手に技をかける場合は、基本的に手をつかってかけるのだから、手は重要である。手をうまくつかわなければ、技はうまくかからない。手をうまくつかうためには、手のことをよく知らなければならないだろう。

しかし、重要であるはずの手を知り、うまく使うのは難しい。なぜなら、誰も教えてくれないので、自分で研究しなければならないのだが、この忙しい世の中にあって、手の研究をする余裕などないようだ。それに、手はけっこう自由自在につかえるものだから、研究の必要性を感じず、不便も感じないため、それで良しとしてしまうのだと思う。

若いうちは力いっぱいやり、力に頼る、いわゆる魄の稽古が主流である。諸手で取られた手でも、相手の諸手(二本の手)に負けまいと、片方の手で頑張ろうとする。

年を取り、体力の衰えを意識するようになってくると、その矛盾がようやく分かるようになる。一本の手が二本の手に敵うはずがない。そこで、二本の手(諸手)に優るものをつかわなければならない、と分ってくるのである。

片手取りの技をかける場合、若いうちは持たれた手を、相手の力に負けまいと思い切り振りまわすものだ。それでは、手は一本対一本であるから、力の強いものが勝つことになる。同質の力でやっていると、受けはたとえ倒されても満足していないだろうし、掛けた側も満足できないものである。

若いころの魄に頼る稽古では、手は手先から肩までであり、手の力も肩までの力である。従って、出せる力もあまり大きいものではない。この力は体力に比例するようで、力の限界が表れるものだから、この力で稽古を継続していくことは難しい。

この手の力を使わないとしたら、では、手の力をどこから出せばよいか、ということになる。以前から書いているように、手(上肢)とは、指先から胸鎖関節までをいうのである。

先ず、肩そのものから出る力である。肩には肩甲骨があるが、この肩甲骨の可動範囲を最大限にし、この肩関節周辺部分を上下、前後(内旋・外旋)大きく、柔軟に動かすことによって、前述の指先から肩までの手をつかうのである。肩関節周辺部分から出る力は、肩先から出る力とは全然違った力である。この力は、クマが闘いにつかう手と同じだろうと思う。

呼吸に合わせて使えば、力が大きいだけでなく、相手をくっつけてしまい、相手の気持ちを導く、和合の力となるようだ。この力は、深層筋からでると考える。この手を第二の手と考えたい。諸手取りでも、片手取りでもここをつかってやればいい。

この肩甲骨のある肩関節周辺部分から先に、胸鎖関節がある。胸鎖関節は手の一方の末端・先端であり、手の中心と考える。手の中心であれば最大の力が出るはずである。

力は、体に近いひとつ前の関節の筋肉を動かすことによって出るはずである。手先を動かす場合は前腕、前腕を動かす場合は上腕、上腕から下を動かす場合は肩、肩から下を動かす場合は肩関節周辺部分、肩関節周辺部分から下を動かす場合は、胸鎖関節の反対側の身体などである。

胸鎖関節が中心になり、その反対側の体をつかうのであるが、そこから大きい力が出ることが分りやすいのは、木刀の素振りだろう。木刀を振り上げ、振り落とすのに、胸鎖関節を中心にその反対側の体の部位をつかうから、大きい力が出るのである。この手を第三の手としたい。

この第三の手は、入身転換や四方投げ、小手返しなどで体を開くときに、大事な働きをする。

魄の稽古に限界を感じたら、肩先からの手から、第二、第三の手をつかうようにしたらよいだろう。