【第340回】 背骨(せぼね)を有効につかう

人体を支えているのは背骨である。背骨があるから、体を伸ばしたり、立ったり、動いたりすることができる。背骨は約30の推骨と椎間板が連続して積み重なっている構造であり、S字のカーブをしている。このS字カーブにより、外部からの衝撃や体重負担を和らげている。(写真)

椎間板は20代に入ると老化が始まるといわれるが、椎間板だけでなく椎骨も老化するはずなので、背骨が老化していくことになる。老化していく背骨を守るのは、背筋や腹筋などの筋肉や靭帯(関節の骨をつなぐ弾力性のある筋、つまり、骨について運動を起こす力のある筋状の肉)である。

背骨も、技を練磨していく合気道の稽古では大事であるはずだ。体のすべての部分を最大限に活用しなければ、本当の技は出てこないからである。

合気道の技は宇宙の法則に則ったものであり、そして、人間の体も宇宙の意思で宇宙の法則に則ってできている。だから、その体も法則に則ってつかわなければならない。

技をつかう際に、背骨の働きは予想以上に大きい。背骨の伸縮やS字の働きで、技の効き方が変わってくるのである。

例えば、坐技の呼吸法の場合には、立ち技のように腰から下の下肢が自由につかえないので、腰から上の上半身で技をかけなければならない。この場合、上半身で動かせるのは、両手以外には背骨であろう。背骨のS字の動きでやれば、手だけの動きよりも大きい力が出る。

また、「半身半立ちの四方投げ」では、手先と腰を結び、相手に持たせた手先を背骨で大きく円を描くようにつかうと、相手が自分の中心を大きく回ることになる。

諸手取り呼吸法は大事な稽古法であるが、なかなか容易ではない。相手は二本の手でこちらの一本の手を抑えているわけだから、二対一では容易に相手を倒すことができないのも当然であろう。腰腹の力で手と足を十字につかわなければならないが、それでも、最後に相手を倒そうとした腕が相手の首にかかると、相手にがんばられて動かなくなってしまうものだ。

初心者はここで腕に力を込めて倒そうとし、相手とぶつかってしまい、相手にがんばられてしまう。これでは、合気道の結びの教えに反することになるし、相手も喜んで倒れてはくれない。

ここでは、背骨に働いてもらわなければならない。合気道の公理として、相手に接している個所は、押したり引いたり動かしてはいけない。だから、その相手の首にかかっている接点をくっつけたまま、背骨のS字のカーブをまず大きくし(縮める)、自分の重心を下げ、次にS字のカーブを小さくし(伸ばす)、重心を高くし、そして、自分の重心を接点の腕を通して相手にかける。そうすると、こちらが相手をわざわざ投げなくとも、相手は自分で倒れていくはずである。

上記のように背骨をつかう際は、呼吸が重要である。背骨は推骨と椎間板で構成されているので、それらを伸ばしたり縮めたり柔軟につかわなければならない。背骨を柔軟につかうために大事なのが、呼吸である。息を吸う(入れる)と緩んで伸び、息を吐くと縮んで締まる。呼吸によって、背骨の伸縮やS字カーブを変えていくのである。

しかし、この息遣いは、十字の横の呼吸である胸式呼吸でないと難しいだろう。ただの胸式呼吸ではない、しっかりした腰腹での腹式呼吸が土台になっていなければ、背骨は自由に働いてくれず、背骨をうまく活用することは難しいのである。

この背骨には、手足を動かすための脳から筋肉への刺激を筋肉へ伝えたり、感覚情報や刺激伝達の経路として重要なはたらきをする脊髄があるが、背骨の他の部分は後日の研究とする。