【第336回】 胸と肩・肩甲骨

体の要である腰腹からの力を手先まで伝えるには、肩を貫(ぬ)かなければならない。肩を貫かなければ、力が出せないだけでなく、肩を痛めてしまうことにもなる。実際、けっこう多くの稽古人が肩を痛めているようだ。

稽古しない多くの人たちも、40肩、50肩といって、肩に痛みを感じたり、腕が上がらなくなったりしている。合気道の稽古をすれば40肩、50肩にならないということでもないようだし、稽古しなくとも肩を痛めるのには、何か根本的な原因があるはずである。

腕を、肩を中心に腕をふつうに回してみれば、うまく円く回らないものだ。肩に痛みをもっていれば、なおさら回りにくい。肩に引っかかるか、引っかかる感じがするはずである。これを無理してやると、必ず肩を痛めてしまうことになる。

では、肩を痛めることなく腕を回すにはどうすればいいかというと、腕を回す前に、肩と肩甲骨を左右、外側に伸ばさなければならない。両手を肩の高さまで挙げて、左右、外側に伸ばしてもいいが、胸を拡げて肩と肩甲骨を外側に伸ばすとよい。

肩と肩甲骨を伸ばしたところで、腕を回すのである。今度はスムーズに回せるはずである。肩・肩甲骨と腕のつなぎのロックが解除され、肩が抜けて、腕が自由に動くようになるからである。
また、肩と肩甲骨が横に動くことによって、腕が縦に動くことを容易にするとも考えられる。つまり、横縦十字につかうことになるわけである。

これと同じように、剣を振り下ろす場合も、正面打ちで切り下ろす場合も、振り下ろす前に胸を拡げて、肩と肩甲骨を横に拡げなければならない。

この意味からも、胸を拡げることはよいことである。実際、胸を広げることなく、閉じていると、肩や肩甲骨が伸びないし、腕が肩に引っかかって思うように回らなくなる。胸と肩・肩甲骨は、緊密に繋がって連動しているのである。

相対稽古で、胸を拡げて肩と肩甲骨を働かす稽古は大事であるが、それを補足、促進する稽古法が合気道にはある。それは「船漕ぎ運動」である。エイホー、エイホー・・・、エッサ、エッサ・・・・と掛け声をかけながら、腕を目いっぱい後ろに引くと、胸が広がり、肩と肩甲骨は外側に伸びる。

「船漕ぎ運動」は何のためにやるのか、どうやればよいのかは明確ではないが、その解答の一つとして、「船漕ぎ運動」は胸を拡げ、肩と肩甲骨が外側に伸びるようにやればよい、ということになろう。